令和元年台風19号被災地の泥から検出されたレジオネラ属菌について
(IASR Vol. 41 p210: 2020年11月号)
水害被災地の泥から検出されたレジオネラ属菌について報告する
これまでの東日本大震災に関連するレジオネラ症の報告のうち, がれき撤去作業や浸水建造物清掃が感染経路と考えられるものが4例あった1)。津波と同様に, 河川氾濫や堤防越水等の水害被災地では, 市街地等に広がった浸水に伴い, 河川の底や堤防付近等の泥が多量に運ばれた後, 乾燥して土埃となって空気中に舞い, レジオネラ症を引き起こす可能性がある。今回は, 実際の水害被災地で, 泥のなかにレジオネラ属菌が生息しているのかを調査した。
2019年12月18日に, 令和元年台風19号(東日本台風)被災地の福島県いわき市で, 浸水地域の泥を採取して試料とし, 試料中にレジオネラ属菌が生息しているかを調べた。採取したのは, いわき市内を流れる夏井川の決壊場所近くの公園で3試料, 団地脇側溝で2試料, 団地内公園で1試料の合計6試料である(図)。
泥試料からのレジオネラ属菌検出方法は, アメーバ共培養法を用いた。各土壌50g(湿重量)を滅菌した300mL三角フラスコに採り, 100mLの滅菌脱イオン水を加え, あらかじめPYGC培地で培養したAcanthamoeba sp.を添加した。その土壌懸濁液を30℃で培養して, レジオネラ属菌を増菌した。4週間培養後, 選択培地に土壌懸濁液を接種してレジオネラ属菌を検出した。
その結果, 6試料中3試料からレジオネラ属菌が検出された(表)。検出された泥は, いずれも決壊現場近くの公園に堆積したものである。菌種はすべてLegionella longbeachaeだった。なお, L. longbeachaeは, 病原微生物検出情報(IASR)で1996年2), 2004年3)に感染例報告がある。オーストラリアでは1987年5月~1989年6月の間に30例の感染報告4)があり, 腐葉土などの植物性堆肥との関連性が指摘され, 造園とのかかわりが深いとされている。
今回の調査で, 水害被災地の住宅地付近に堆積する泥から, アメーバ共培養法によってレジオネラ属菌の生菌を検出した。水害被災地では, 土壌, 泥等の土埃からのレジオネラ症感染予防のため, マスクの着用が重要だと考える。今後も, 被災地での泥のレジオネラ属菌有無の調査を継続し, 被災地での避難者の健康管理につなげていきたい。
参考文献
- 砂川富正ら, IASR 34: 160-161, 2013
- 岡崎美樹ら, IASR 19: 79-80, 1998
- 田中 忍ら, IASR 26: 247-247, 2005
- Steele TW, et al., Appl Envron Microbiol 56: 49-53, 1990