2016年に多発傾向がみられたレジオネラ症の解析―秋田県
レジオネラ属菌は水や土壌などの環境中に広く存在し、ヒトに急性肺炎や熱性疾患を引き起こす。近年レジオネラ症の報告数は、尿中抗原検査や遺伝子検査の普及と相まって全国的に増加傾向にある。秋田県においては、ここ数年は年間10件前後の報告がなされるのみであったが、2016年には第43週までに30件の報告があり、報告数の増加がみられた。そこで、2016年7月末~10月までにレジオネラ症の報告があった患者の喀痰について培養検査を行い、得られた菌株についてパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE法)およびsequence-based typing(SBT法)による分子疫学解析を実施した。
表に検査結果をまとめた。当該期間中には医療機関からの分与菌株を含め、4株の菌が分離された。菌種は、いずれもLegionella pneumophila血清群1であった。SfiIによるPFGEパターンは、検体No.1と検体No.8の分離株がほぼ同一であったが、患者発生地域は地理的に離れており、関連性は不明であった。他の2株はPFGEパターンが異なっており、事例間の関連性は低いと考えられた。SBT法による解析では、4株の遺伝子型はそれぞれST550、ST384、ST679、ST550であった(表)。L. pneumophila血清群1の遺伝子型は、浴槽水からの分離株が多く含まれるB1、B2、B3、冷却塔水からの分離株が多く含まれるC1、C2、土壌・水たまりからの分離株が多く含まれるS1、S2、S3、感染源不明の臨床分離株が多いUグループの9つに大別される(http://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/reference/H28_Legionnaires.pdf)。本調査で分離された4株の遺伝子型はいずれもS1グループに属し、感染源として土壌の関与が疑われた。
今回、レジオネラ症の多発傾向を受け、分離株からの分子疫学解析を実施したが、事例間の関連性は低く、散発的な患者発生と考えられた。一般的に、レジオネラ症は温泉などの入浴施設を原因とした集団感染が注目されているが、レジオネラ属菌は元来土壌細菌であり、園芸作業や粉塵を吸入する可能性のある工事作業では感染のリスクがある。本調査においても、患者らは土木作業や道路工事作業といった土壌からの感染リスクの比較的高い職業であった。これらのことから、本症による健康被害防止には土壌などからの感染リスクについて一層の啓発を行い、園芸や工事作業の際にはマスクを着用するなどの感染防止対策を徹底する必要があると思われた。
また、2013年のIASRにおいてレジオネラ症は患者の平均年齢が67.0歳、7月の梅雨時期に患者発生が多くなる傾向が報告されている1)。高齢化の進行や気象変動に伴い、患者発生は今後も増加する可能性があり、適切な発生動向の把握が求められている。診断には尿中抗原等による迅速診断が一般的であるが、培養検査により菌株が得られた場合は、分子疫学解析等から事例間の関連や感染源を推定することが可能であり、本症の対策に非常に有用と考えられた。
参考文献
- IASR 34: 155-157, 2013