国立感染症研究所

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日本紅斑熱が疑われたレプトスピラ症の1例―宮崎県

(IASR Vol. 34 p. 111-112: 2013年4月号)

 

2012年10月に、臨床症状および刺し口があることからリケッチア症が疑われたが、ペア血清での抗体測定によりレプトスピラ症と確定診断された1例があったのでその概要を報告する。

症 例
61歳男性。2012年9月下旬、水田で稲刈りと草刈り作業に従事後、両下肢に掻痒感。9月27日に全身倦怠感、食欲不振、呼吸困難出現。尿量が減り、発熱、関節痛、下痢も認めた。10月1日に医療機関を受診し、WBC 、CRP上昇、両鼠径リンパ節腫脹、両下肢に刺し口を認めたためリケッチア感染症が疑われ、検体が当所へ搬入された。主治医に入院を指示されたが、本人の希望により補液およびミノサイクリンを点滴後、帰宅。夜間に呼吸困難が出現したため10月2日に受診、同日入院となった。

血液検査所見(10月1日受診時)
WBC 11,700/μl、Hb 15.5g/dl、PLT 4.8万/μl、T.Bil 6.1mg/dl、AST 48IU/L、ALT 65IU/L、ALP 288IU/L、LDH 245IU/L、BUN 86.8mg/dl、Cre 4.4mg/dl、CRP 29.6mg/dl、CK 332IU/L

臨床経過
入院時、呼吸困難はなく、体温36.8℃、黄疸、多臓器障害がみられた。血液検査所見はT-Bil 10.5mg/dl、AST 49IU/L、ALT 62IU/L、ALP 359IU/L、LDH 213IU/L、BUN 102mg/dl、Cre 4.5mg/dl、CRP 22.6mg/dlであった。リケッチア感染症と溶血性尿毒症症候群が疑われ、補液とミノサイクリン投与が開始された。

10月1日に採取した急性期血清についてRickettsia japonica(Rj)とOrientia tsutsugamushi(Ot)の抗体価を間接蛍光抗体(IF)法により測定した結果、Rjに対するIgM 抗体が320倍であった。日本紅斑熱が疑われたため抗菌薬にパズフロキサシンが追加された。

10月4日に腹部膨満および腹部全体の痛みがあり、粘液便がみられた。翌日には腹痛は軽減したが、下痢は続いた。その後、尿量は順調に増加、WBC、CRPは低下傾向を示し、炎症反応は改善された。

10月16日に回復期血清を採取しRjとOtの抗体価を測定した結果、Rjに対するIgM 抗体が320倍であり、ペア血清での抗体価の上昇が認められなかった。IF法の鏡顕像から非特異反応と判定した。患者の作業環境と、黄疸、肝機能障害、腎機能障害などの臨床症状からレプトスピラ症の可能性もあるため、国立感染症研究所・細菌第一部へ検査を依頼した。15血清型生菌を用いた顕微鏡下凝集試験(MAT)によるペア血清抗体価測定の結果、Poi 、Copenhageni 、Hebdomadis、Ictero-haemorrhagiaeが640倍と抗体陽転が認められ、レプトスピラ感染が確定した。

10月末には黄疸以外の症状は改善され、11月6日にはT-Bilは6.1 mg/dlまで低下したため11月7日に退院、外来でのフォローとなった。

考 察
レプトスピラ症は、日本紅斑熱やツツガムシ病と類似の臨床症状を示し、宮崎県では発生時期も日本紅斑熱と重複していることから、今回、リケッチア症疑い例に対してレプトスピラ症の検査を実施した。本県に限らずリケッチア症が見られる地域では、鑑別診断にレプトスピラ症を考慮する必要があると考えられた。また、他にもリケッチア症と類似した症状を示すウイルス感染症などもあることから、今後、未確定例の原因を調査していくことが必要だと思われた。また今回の症例では、IgM抗体が320倍と高値であったにもかかわらず、非特異的に反応していたことがペア血清を検査することにより判明した。IF法などによる血清診断では、交差反応も含め非特異的な反応も起こり得ることから、回復期血清を含め、適切な検体を確保することが重要だと考えられた。

 

宮崎県衛生環境研究所
     三浦美穂 伊東愛梨 矢野浩司 吉野修司 大浦裕子 古家 隆
都城市郡医師会病院 名越秀樹
国立感染症研究所細菌第一部 小泉信夫 大西 真

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