国立感染症研究所

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2013年に沖縄県西表島で発生したレプトスピラ症

(IASR Vol. 35 p. 14-15: 2014年1月号)

 

2013年の夏季に沖縄県西表島の河川を感染源とするレプトスピラ症が多発したので、その概要を報告する。

同年6~10月、八重山地域の医療機関からレプトスピラ症を疑う症例の検査依頼が当研究所に、また西表島を旅行後に本土で発症した観光客の検査依頼が横浜市および岩手県から国立感染症研究所にあり、PCR検査、抗体検査および分離菌の同定検査を実施した。

実験室診断によりレプトスピラ症が確定した8例を表1に示す。陽性者の年齢は、10代、20代および40代が各2名、50代および60代が各1名で、性別は全員男性であった。感染月日が明らかな4例の潜伏期間は、5~11日であった。感染地域は8例とも西表島で、川や滝でのレジャー活動または労働が感染機会と推定された。検査結果は、血液から菌が分離された症例が4例、抗体検査またはPCR検査で陽性と診断された症例が4例であった。感染血清群は、Pyrogenesが5例、 Hebdomadisが2例、Grippotyphosaが1例であった。PCR検査を実施した6例中5例が陽性であったが、そのうち4例は血液または尿のどちらか一方が陽性であった。また、両方とも陰性であった1例(No.5)は、抗菌薬投与後に検体が採取されたとのことであった。以上のことから、PCR検査を実施する際には、急性期の血液と尿の両方を検体とし、抗菌薬投与前に検体が採取されていたかどうかを確認することが、診断の信頼性を確保する上で重要と思われた。

確定診断8例の主な臨床症状として、発熱が8例すべてでみられ、眼球結膜充血が6例,筋肉痛が5例、消化器症状(下痢・嘔気等)が4例、関節痛、ショック症状および頭痛が3例、黄疸が2例、リンパ節腫脹および髄膜炎様症状が1例でみられた。No.1以外の7例が入院を要した。血液検査の各中央値は、T-Bil 1.2 mg/dL、AST 48.5 IU/L、ALT 60.5 IU/L、BUN 19.9 mg/dL、Cre 1.5 mg/dL、CRP 18.5 mg/dL、WBC 11445/μL(好中球89.0%)、Hb 14.2 g/dL、PLT 16.4/μLで、肝機能障害が5例、腎機能障害が4例、播種性血管内凝固症候群(DIC) が1例でみられた.また8例すべてでCRP の高度上昇がみられた。尿検査では、検査した7例中4例が尿潜血陽性、3例が尿蛋白陽性であった。

レプトスピラ症は急性熱性疾患で、感冒様の軽症型から、黄疸、出血、腎不全を伴う重症型(ワイル病)まで、その臨床症状は多彩である。通常5~14日の潜伏期の後に、38~40℃の発熱、悪寒、頭痛、筋痛、結膜充血などの初期症状をもって発病する。今回の8例のうち、重症型の3主徴のいずれかを呈した症例はNo.4~7の4例で、No.7では髄膜炎も合併してみられた。これら4例は発症から受診までの日数が4日以上経過していた。一方、発症から受診までの日数が2日以内であった2例(No.1および3)は、肝機能および腎機能に異常はみられず、発熱も37℃台と比較的軽症であったことから、早期受診・早期診断の重要性がうかがえた。

西表島は面積の90%が亜熱帯の自然林で覆われ、イリオモテヤマネコ等の様々な生物が生息し、夏季には数多くある川や滝でのカヌーやトレッキング等のエコツーリズムが人気である。過去、西表島を含む八重山地域では、1999年夏季に河川でのレジャーに携わる人々の集団発生 (IASR 21: 165-166, 2000)や、西表島旅行中に感染し帰省後に発症した例(IASR 24: 327, 2003およびIASR 29: 8-10, 2008)が報告されている。また、2005~2012年においても、当所の検査で西表島河川での感染者が毎年確認されている。2013年は3月に新石垣空港が開港し、首都圏からの直行便の運航が可能となったことで、4~9月の八重山入域観光客数は556,818人と過去最高を記録した(前年比34.5%増)。今後も観光客数は高い水準で推移すると思われることから、西表島のレジャー関連業者や観光客に向けたレプトスピラ症の予防と早期受診に関する知識の普及啓発が重要と思われた。

 

沖縄県衛生環境研究所 
  岡野 祥 新垣絵理 高良武俊 加藤峰史 仁平 稔 喜屋武向子 久高 潤   
沖縄県八重山保健所   
  饒平名長令 前津政将 桑江沙耶香  大屋記子 宮川桂子
沖縄県立八重山病院  小坂文昭 松本奈央 伊勢川拓也 島袋 彰   
石垣島徳洲会病院 中川吉丈   
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岩手県立中央病院 橋本 洋   
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