注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。
典型的な麻しんは高熱、全身の発疹、カタル症状を特徴とし、空気感染を主たる感染経路とする感染力の非常に強いウイルス感染症である。肺炎、脳炎等を合併して死亡することもあ り、事前に予防接種を受けることで予防が可能である。日本は現在、2015年3月に国際的な認定を受けた国内における麻しんの排除状態を維持すること(麻しんに関する特定感染症予防 指針、2007年12月28日告示:http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000112477.pdf)を麻しん対策の目標にしている。しかし、海外の多くの国では、麻しんが流行しており、わが国でも海外からの麻しんウイルスの輸入が継続して起きている。また、輸入例を発端とした感染拡大(渡航歴のある患者や、その接触者からの患者の発生)が2017年にも起きているため、本稿は、主に感染症発生動向調査に基づく国内の麻しんの直近の疫学状況に関する情報を提供することを目的とした。
2017年第1〜9週に診断された麻しん症例数(2017年3月8日現在)は44例であり(前年同時期は2例)、うち、検査診断例が43例(98%)であった(麻しん:27例、修飾麻しん:16例)。男性25例、女性19例であり、年齢中央値は25歳(範囲0〜53歳)であった。この間の都道府県別の報告数は三重県20例、広島県7例、香川県4例、東京都、福岡県各3例、大分県2例、埼玉県、神奈川県、愛知県、大阪府、兵庫県各1例であった。推定感染地域は国内が35例、国外が9例(インドネシア3例、ネパール、ミャンマー、タイ、ニュージーランド、ベトナム、ガボン各1例)と報告されていた。ワクチン接種歴については、接種歴無しが11例(25%)、不明が14例(32%)、1回が13例(30%)、2回が6例(14%)であった。2回接種歴有りの6例のうち5例は軽症で非典型的な修飾麻しんであった。接種歴無しの11例は、全て検査診断例で、そのうち9例は、より重篤で典型的な麻しんであった。麻しんウイルスの遺伝子型は10例で報告されており、その内訳はD8型8例、B3型1例、H1型1例、NT(Not Typed)1例であった〔麻疹ウイルス分離・検出状況(2017年3月10日現在):http://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-measles.html〕。
麻しんは、年齢にかかわらず命に関わる重篤な疾患である。また、その感染拡大防止のためには、集団免疫を維持するための麻しん風しん混合ワクチンの2回の定期接種の徹底に加えて、感染者の早期探知と迅速な対応も欠かせない。発熱・発疹を呈する急性感染症の患者が医療機関を受診する際に、重要となるのが問診であり、医療関係者が発熱・発疹患者に対して聞き取りを行う場合には、麻しんを意識した診療を行うこと、麻しんの流行国を把握し(例、西太平洋地域における麻しん・風しん流行状況:http://www.wpro.who.int/immunization/documents/measles_rubella_bulletin/en/)、渡航歴や発熱・発疹患者との接触歴、予防接種歴などの確認を慎重に行うことが重要である。
さらに、日本国内に海外から麻しんウイルスが輸入されないために、海外渡航者に対しては、ワクチン接種歴等を確認の上、必要に応じて渡航前にワクチン接種が行われることが推奨される。2016年の関西国際空港の事例においては、定期接種の着実な実施による集団免疫効果や、積極的疫学調査等の取り組みにより大規模な感染拡大には至らなかったが、人の移動がよりグローバル化している昨今においては同様のリスクは常にあると認識しておく必要がある(http://www.niid.go.jp/niid/ja/hassei/6865-measles-kankuu-20161102.html)。また、海外からの麻しんの輸入例に対しては、最初に患者と接する可能性が高いのが医療機関であることからも、事前の予防策として、事務職を含むあらゆる医療関係者においては、2回の麻しん風しん混合ワクチン接種歴の確認と必要な場合の接種の推奨が重要であることを改めて強調したい。また、麻しんと診断した場合に都道府県知事等へ速やかに届け出ること、麻しんの感染力の強さに鑑みた院内感染対策を実施することが重要である。
また、麻しん風しん混合ワクチンの安定供給のため、厚生労働省の以下の通知(平成28年9月9日)を参考頂きたい(麻しんの広域的発生に伴う乾燥弱毒生麻しん風しん混合ワクチンの供給に係る対応について:http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/161018_1.pdf)。
麻しんの感染症発生動向調査に関する背景・詳細な情報と最新の状況については、以下を参照いただきたい:
●麻疹とは
国立感染症研究所 感染症疫学センター |