麻しんは高熱、全身の発疹、カタル症状を特徴とし、空気感染を主たる感染経路とする感染力の非常に強いウイルス感染症である。肺炎、脳炎等を合併して死亡することもあるが、事前に予防接種を受けることで予防が可能である。日本は現在、2015年3月に国際的な認定を受けた国内における麻しんの排除状態を維持すること(麻しんに関する特定感染症予防指針、2007年12月告示、2013年に改定:http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000112477.pdf )を麻しん対策の目標にしている。しかし海外では、多くの国で麻しんが流行しており、わが国では近年、タイ、フィリピン、インドネシア等の東南アジア、イタリア等の欧州からの麻しんウイルスの輸入が継続して報告されている。2018年3月20日、沖縄県内で海外からの旅行客の1人が麻しんと診断され、沖縄県内の広範囲から継続して麻しん患者が報告された(http://www.pref.okinawa.jp/site/hoken/eiken/kikaku/kansenjouhou/measles.html )。その後、沖縄県内で感染した患者が、他県において発症し、厚生労働省からも注意喚起がなされた〔麻しん対策の更なる徹底について(協力依頼):http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rubella/dl/180427_1.pdf 〕。沖縄県からの麻しん患者の新規報告数は現在減少しているが、推定感染地域を国内とする麻しん患者の報告は継続している。本稿は、主に感染症発生動向調査に基づく国内の麻しんの疫学状況に関する直近の情報を提供することと、継続した注意喚起を目的としている。
2018年第1〜20週に診断された麻しん症例数(2018年5月23日現在)は161例であり、うち、検査診断例が145例(90%)であった(麻しん:99例、修飾麻しん:46例)。男性89例、女性72例であり、年齢中央値は29歳(範囲0〜58歳)であった。都道府県別の報告数は、沖縄県88例、愛知県25例、福岡県17例、東京都11例、埼玉県6例、茨城県、神奈川県各3例、山梨県、大阪府各2例、千葉県、静岡県、兵庫県、山口県各1例であった。推定感染地域は国内が136例、国外が12例(タイ8例、インド、ネパール、バングラデシュ、フィリピン各1例)、不詳11例、不明2例と報告されていた。ワクチン接種歴については、接種歴無しが35例(22%)、不明が75例(47%)、1回が34例(21%)、2回が17例(11%)であった。2回接種歴有りの17例のうち10例は軽症で非典型的な麻しん(修飾麻しん)であることが分かっている。接種歴無しの35例のうち33例は典型的な麻しんで、うち30例は検査診断例であった。全報告のうち30症例から検出された麻しんウイルスに関する情報が病原体検出情報に報告され、その遺伝子型の内訳は遺伝子型不明の1例(3%)を除き、D8型25例(83%)、B3型4例(13%)であった。病原体検出情報において渡航歴の記載がある12例の渡航先は、D8型はタイ8例、ネパール1例、B3型はフィリピン2例、バングラデシュ1例であった(2018年5月28日現在)。
麻しんは空気感染をし、強い感染力をもつ。また、しばしば合併症を併発し、年齢にかかわらず命に関わることもある重篤な感染症である。また、その感染拡大防止のためには、個々の予防と集団免疫を維持するための麻しん風しん混合ワクチンの2回の定期接種の徹底〔麻しん・風しん混合(MR)ワクチン接種の考え方:https://www.niid.go.jp/niid/ja/id/655-disease-based/ma/measles/idsc/7982-mrvaccine2018.html)に加えて、感染者の早期探知と迅速な対応も欠かせない。発熱・発疹等、麻しんが疑われる症状が見られた場合には、感染伝播を防ぐために事前に医療機関に連絡してから受診することが重要である(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/measles/dl/leaf.pdf )。医療関係者が発熱・発疹等患者に対して聞き取りを行う場合には、麻しんの可能性を考慮し、渡航歴や発熱・発疹患者との接触歴、予防接種歴などの確認を丁寧に行うことが重要である。その際に麻しんの流行国に関する情報は有用である(西太平洋地域における麻しん・風しん流行状況:http://www.wpro.who.int/immunization/documents/measles_rubella_bulletin/en/ 、南東アジアにおける麻しん・風しん流行状況:http://www.searo.who.int/entity/immunization/data/en/ 等)。
さらに、日本国内に海外から麻しんウイルスが輸入されることを出来るだけ少なくするために、海外渡航者に対しては、ワクチン接種歴等を確認の上、必要に応じて渡航前にワクチン接種が行われることが推奨される〔麻しん・風しん混合(MR)ワクチン接種の考え方:https://www.niid.go.jp/niid/ja/id/655-disease-based/ma/measles/idsc/7982-mrvaccine2018.html 〕。帰国後の海外渡航者に対しては、2週間程度は麻しん発症の可能性も考慮して健康状態に注意することが重要である。また、空港・観光地・駅・商業施設など多くの人が往来する場所・施設などでは感染のリスクがあると認識しておく必要がある。同時に、最初に麻しんの患者と接する可能性が高いのは医療関係者であることから、事前の予防策として、事務職を含むあらゆる医療関係者においては、1歳以上で2回の麻しん風しん混合ワクチン接種歴の記録による確認と、必要な回数を受けていない場合のワクチン接種が重要であることを改めて強調したい。また、麻しんと診断した場合には、感染症法に基づく届出を速やかに行うこと、麻しんの感染力の強さに鑑みた医療機関内における感染対策を実施することが重要である。
麻しんの感染症発生動向調査等に関する詳細な情報と最新の状況については、以下を参照いただきたい:
●麻疹とは
国立感染症研究所 感染症疫学センター |