注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。
麻しんは高熱、全身の発疹、カタル症状を特徴とし、空気感染・飛沫感染・接触感染を感染経路とする感染力の非常に強いウイルス感染症である。麻しんによる肺炎、脳炎などの合併症は麻しんによる急性死亡の二大原因である。また、主に乳児期に麻しんに罹患した後、平均7年の期間を経て、重篤な亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis:SSPE)を発症することがある。事前に予防接種を受けることで、麻しんを予防することが可能である。日本は現在、2015年3月に国際的な認定を受けた国内における麻しんの排除状態を維持すること〔麻しんに関する特定感染症予防指針(平成19年厚生労働省告示第442号):https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000112477.pdf〕を麻しん対策の目標にしている。本稿は、主に感染症発生動向調査に基づく国内の麻しんの疫学状況に関する直近の情報を提供することを目的としてまとめたものである。
2018年第35週以降、麻しん報告数は週当たり報告数1〜9例で増減を繰り返していたが、2019年第2週以降急増し、2019年第10週現在まで、週当たり報告数14〜52例で推移している。第10週現在の、報告数のピークは第2週、第4週及び第7週に認められ、45〜52例であった。第8週以降、明らかな集団発生は認められないものの、関西・東海地方では継続して患者が発生している。一方、関東地方においては、東京都で第7〜9週に報告数が増加し、また、埼玉県、神奈川県、千葉県でも継続して報告されている。
2019年第1〜10週に診断された麻しん報告数(2019年3月13日現在)は304例であり、うち、検査診断例が276例(91%)であった(麻しん:217例、修飾麻しん:59例)。男性153例、女性151例であり、年齢中央値は23歳(範囲0〜72歳)であった。2019年のこれまでの報告数は、既に2018年全体の累積報告数(暫定282例)を上回った。都道府県別の2019年の累積報告数は、大阪府106例、三重県51例、愛知県29例、東京都28例、神奈川県14例、千葉県、和歌山県各9例、埼玉県、京都府各8例、茨城県6例、岐阜県、兵庫県、広島県各5例、静岡県、滋賀県、奈良県各4例、北海道3例、栃木県、沖縄県各2例、岩手県、熊本県各1例であった。推定感染地域は国内が233例(うち都道府県不明21例)、国外が44例(フィリピン17例、ベトナム13例、ミャンマー5例、モルディブ2例、韓国、カンボジア、スリランカ、マレーシア各1例、スリランカ/モルディブ2例、タイ/ラオス1例)、国内/国外が4例(愛知県/フィリピン2例、茨城県/ベトナム1例、愛知県/ニューカレドニア1例)、国内・国外不明が23例報告された。ワクチン接種歴については、接種歴無しが105例(35%)、不明が106例(35%)、1回が54例(18%)、2回が39例(13%)であった。2回接種歴有りの39例のうち22例は修飾麻しんと報告され、軽症で非典型的と考えられた。接種歴無しの105例のうち102例は典型的な麻しんで、うち90例は検査診断例であった。
また、2019年3月13日現在、麻しんウイルスに関する情報が病原体検出情報へ118例報告されており、遺伝子型の内訳はD8型96例(81%)、B3型12例(10%)、A型7例(6%)、不明3例(3%)であった。
海外ではWHO西太平洋地域のフィリピンなどで、麻しんの大きな流行が発生している。WHOは昨年11月に、ワクチン接種状況の違いにより世界的に麻しんの発生数が急増していることについて注意を促した。海外から麻しんを持ち込まないためには、海外渡航予定者においてはワクチン接種歴等を確認の上、必要に応じてワクチン接種を受けることが推奨される。
国内における感染拡大の防止のためには、個々の予防と集団免疫を維持するための麻しん風しん混合ワクチンの2回の定期接種の徹底が最も重要である。加えて、感染者の早期探知と迅速な対応も欠かせない。麻しん患者の適切な診断、1例でも報告された時点で各関係機関の協力のもとで行う迅速な接触者調査と対応、地域の医療機関への情報伝達と住民に対する予防のための啓発が重要である。特に事例が広域となるおそれのある場合の各関係自治体間の情報共有は重要である。
また、麻しん患者の報告がある地域や海外渡航者を診察する可能性のある医療機関においては、院内感染対策のさらなる徹底が重要である。事務職員等を含む病院関係者全員へのワクチン接種歴・罹患歴の調査や必要に応じたワクチン接種が求められる。また、麻しん患者との接触のある者が、発熱などの体調不良を自覚した場合には、二次感染防止のため、麻しんの可能性があることを事前に医療機関に電話で伝えた上で受診することが重要である。
典型的な麻しんは空気感染・飛沫感染・接触感染によって伝播し、重症度も高い。現在の、国内における例年を上回る麻しん患者数の増加は、麻しんによる重症者発生のリスクを増大させるとともに、我が国が達成した麻しん排除への深刻な脅威となることが懸念される。
麻しんは、10〜12日(最大21日)の潜伏期間を経て発症する疾患であり、今後、時期的にさらに人の移動が活発になることも含め、再び増加する可能性は高いと考えられる。麻しん対策として麻しん風しん混合ワクチンを用いることで、昨年から流行している風しんへの対策としても有効である。これらはワクチンで予防可能な疾患であることを踏まえて、麻しん風しん混合ワクチンの2回の接種の徹底と発生時の対応をお願いしたい。
麻しんの感染症発生動向調査等に関する詳細な情報と最新の状況については、以下を参照いただきたい(引用日付2019年3月13日):
●麻疹とは
国立感染症研究所 感染症疫学センター |