国立感染症研究所

logo

鳥取県内の流行性耳下腺炎の流行

(IASR Vol. 34 p. 11-12: 2013年1月号)

 

鳥取県では、2010年の秋~2012年の春まで流行性耳下腺炎の流行があり、これに伴い、47株のムンプスウイルスが分離された。検体は、咽頭ぬぐい液が41件、髄液が6件であり、分離細胞には、Vero細胞を用いた。臨床診断名別では、流行性耳下腺炎が35株、無菌性髄膜炎が5株、咽頭炎が6株、急性脳症疑いが1株であった。同期間中には、流行性耳下腺炎が109件、無菌性髄膜炎が48件、咽頭炎が1,199件の検体が搬入されたので、それぞれの臨床診断からのムンプスウイルスの分離率は、32%、10%、0.5%であった。

これらの流行したムンプスウイルスの遺伝子型を調べるために、26株のsmall hydrophobic protein (SH)遺伝子配列を含む領域の配列を決定した。25株は、GenBankに登録されている遺伝子型Gに属するムンプスウイルスと97%以上の相同性を示し、残りの1株は、ワクチンの星野株と99%の相同性を示した。国内ワクチン株はいずれも遺伝子型Bに属し、世界のワクチン株には遺伝子型Gのものは存在しないことから、分離された遺伝子型Gのウイルスは、すべて野生株であることがわかった。遺伝子型Gに属するムンプスウイルスは、全世界的に流行しており、国内でも多く分離されている1-3) 。一方、星野株と相同性を示した株は、流行性耳下腺炎の患者から分離されたもので、この患者は、発症の16日前にワクチンを接種していた。

また、当研究所で保存されていたムンプスウイルス10株(2005~2009年の分離株)について調べたところ、すべて遺伝子型Gであった。さらに、欠損なくSH遺伝子を含む領域の配列(region 6,218bp to 6,602bp of AF345290.1;385nt)が得られた県内分離株を、データベース上にあった14株とともに、遺伝子解析ソフトウェア(MEGA5)を用いて近隣結合法で系統樹解析を行った。これにより作成した系統樹をに示す。このうち、前回の県内流行期の2005~2007年に分離した6株、流行沈静期の2008~2009年に分離した4株、および、今回の流行期(2010~2012年)で分離した16株は同じクラスターを形成しており、英国で分離されたGlouS1UK96株などと近縁であった。また、今回の流行期で分離した別の7株は、同じく英国で分離されたUK99-208x22株などと近縁であった。Liらは、遺伝子型Gのムンプスウイルスを、さらにG1-G7に細分類化しており、GlouS1UK96株やUK01-22SH株をG1、UK99-208x22株やUK00-117x83株をG2としている 1,4)(これ以降、GlouS1UK96株などに近縁のものをG1、UK99-208x22株などに近縁のものをG2とする)。当研究所で2005~2010年までに分離されたウイルスはすべてG1であったことから、鳥取県内では、遅くとも前回の県内流行期の2005~2007年には、G1のウイルスが侵入し、沈静期の2008~2009年を経て、再度、この型のウイルスが流行を引き起こしていたことがわかった。そして、2011年の夏季からはG1に加え、G2も流行していた。今後は、G2のムンプスウイルスの動向にも注視する必要がある。

遺伝子型Bのワクチンに誘導された抗体は、遺伝子型Bのウイルスと同程度に遺伝子型Gのウイルスも中和できるとの報告もあり5) 、県内での流行性耳下腺炎の流行を防ぐには、国内のワクチン接種が重要であるといえる。

 

参考文献
1) Arch Virol 150: 1903-1909, 2005
2) IASR 24: 109-110, 2003
3) 山形衛研所報 41: 23-25, 2008
4) J Infect Dis 189: 1001-1008, 2004
5) J Med Virol 273: 97-104, 2004

 

鳥取県生活環境部衛生環境研究所保健衛生室
白井僚一 浅野康子 山本香織

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version