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香川県におけるLAMP法による百日咳菌遺伝子検出状況

(IASR Vol. 33 p. 104-105: 2012年4月号)

 

香川県では、感染症発生動向調査の強化目的として、2011年8~12月の間、県内に4つある小児科病原体定点のうち2医療機関に依頼し、百日咳が疑われた患者の咽頭ぬぐい液について、LAMP法による百日咳菌検出試薬キット(栄研化学)を用いて香川県環境保健研究センターにて検査を実施したので報告する。

 

2医療機関より5カ月間に百日咳疑いとして検体送付のあった症例数は58例であり(男24女34)、表1にLAMP法陽性および陰性に分類してそれぞれの基本情報を示す。LAMP法陽性は14件(男6女8)であった。陽性者において生後6カ月未満の乳児が多くみられ(64.3%)、予防接種の機会が少なく移行免疫が有効に働かない乳児が罹患しやすいことが推察された。また、陽性者に占める成人は1件のみであったことから、成人の患者が実際に少なかったか、あるいは(および)感染していても菌量が少なく検出しにくいことが考えられた。また、家族内感染について「有」と答えたものは、LAMP陽性者においては5例あった(35.7%)。この5例中3例で5カ月未満の乳児が陽性で、感染源と考えられる母親が陰性であった。これは、母親の保菌量が少ないため検出できなかったか、検体採取時期が感染力の強いカタル期を過ぎていたため検出できなかったのではないかと推察された。なお、LAMP陽性者における臨床症状について、肺炎ではLAMP陽性者が7.1%、陰性者がほぼ倍の13.6%と違いが認められた。しかし、自主回答のみの情報であること、LAMP陽性者においては発症から検体採取日までの平均日数が 5.4日(陰性者においては 8.1日)と短かったことが影響をしている可能性がある。本稿において検討対象となった陽性患者の予後は良好であったとの情報を得ている。

 

疑い患者の送付検体数、うち陽性者数の情報を図1に示す。陽性14件の香川県の分布状況を図2に示した。高松市が6件、中讃、西讃が各3件、東讃が1件、愛媛県が1件であった。また、2011年の定点患者報告数をみると(非掲載)、月別に多い順で9月(7件)、10月(5件)となっていたが、今回の調査と、定点報告との情報の比較は制約が多く困難であった。

 

本調査においては、LAMP陽性者が6カ月未満の乳児に多く見受けられ、うち家族内感染の可能性のある事例も少なからず認めた。百日咳は一般細菌と異なり、培養が難しく検出しにくいのが現状である。本調査で、乳児に陽性例が集中したのも菌量が少ない成人と比較しての検査上の特徴であった可能性もある。しかしながら、重症化しやすい乳児を中心とする百日咳に対する公衆衛生上の注意が改めて必要であることが明らかとなった。LAMP法はDNA の精製に時間を要するが、その後の操作が簡便であり、また特異性が高く、小児を中心とした百日咳の発生動向調査においては、有用な検査方法であると考えられることから今後も継続したい。

 

香川県環境保健研究センター
宮本孝子 有塚真弓 関 和美 内田順子 池本龍一

 

 

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