国立感染症研究所

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サポウイルス、A群ロタウイルスが関わった集団感染事例について―長野県

(IASR Vol. 34 p. 69-70: 2013年3月号)

 

長野県内で開催されたバレーボール大会において、サポウイルス、A群ロタウイルスの2つの下痢症ウイルスが関わったと思われる集団感染事例に遭遇したのでその概要を報告する

2013年1月29日、長野県内医療機関より食中毒様の症状を呈する患者を複数診察したとの連絡が管轄保健所にあった。保健所の調査によると、患者はいずれも1月19、20日に開催された小学生バレーボール大会に参加した1チーム16名(選手8名、その父兄およびコーチ8名)中8名で、下痢、嘔吐等を呈していた。同チームのうち19日のみに参加した者には発症者が認められないことから曝露は20日と推定された。発症者の共通食は20日の大会会場において仕出し業者から提供された昼食のみであったが、同じものを喫食した他4チームでは発症者が確認されなかったことから、本事例は感染症と判断した。

原因究明のため、1月30日に発症者8名の糞便が当研究所に搬入された。まず、リアルタイムPCR法によりノロウイルスの検出を試みたが検出されなかった。そのため、サポウイルス、A群ロタウイルス、C群ロタウイルス、アイチウイルスおよびアストロウイルスについてRT-PCR法によりウイルス遺伝子の検出を試みた。その結果、C群ロタウイルス、アイチウイルス、アストロウイルスはいずれも検出されなかったが、サポウイルスは3名から、A群ロタウイルスは3名から検出された。なお両方のウイルスを検出した検体はなかった。RT-PCR法による増幅産物(サポウイルスはCapsid領域297base、A群ロタウイルスはVP7領域353base)をダイレクトシークエンス法で塩基配列を決定したところ、サポウイルスはGI/2、A群ロタウイルスはG1に属し、それぞれ検出されたウイルス株は99~100%相同性を示した。

発症者が8名と少なかったが、A群ロタウイルス陽性者(9~41歳)は下痢を主症状に発熱・嘔吐などが認められたのに比べ、サポウイルス陽性者(10~39歳)は腹痛、発熱などで比較的軽度の傾向にあった。また、検出ウイルスによる家族間の明瞭な偏りは認められなかった()。

A群ロタウイルス感染症は、患者の緑色または白色便が特徴とされるが、このような特徴がみられない便検体でロタウイルスが検出される場合があり1)、本事例でもこのような特徴は認められなかった。また、サポウイルスにおいても後日実施したリアルタイムPCR検査において検出されたウイルス量は104~105コピー/gと、2004年と2007年の事例で報告されている2)患者検体のウイルス量に比べて少なく、本事例では発症から検体採取まで7日以上経過していたことが起因しているものと思われる。

現在までにも複数のウイルスが検出された感染性胃腸炎の事例は報告されており3)、今後も複数のウイルスの関与を念頭におき原因究明に努めることが重要と思われる。

 

参考文献
1) IASR 32: 74-75, 2011
2) IASR 29: 129-132, 2008
3) IASR 26: 122-123, 2005

 

長野県環境保全研究所感染症部
中沢春幸 嶋﨑真実 小林広記  内山友里恵 上田ひろみ 笠原ひとみ 宮坂たつ子 藤田 暁
長野県諏訪保健福祉事務所(保健所)食品・生活衛生課
藤森義一 松本 泉 青山篤哉 伊沢幸光 小松 仁

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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