(IASR Vol. 34 p. 208-209: 2013年7月号)
事例概要
2013(平成25)年2月25日に県内老人福祉施設において、職員1名が呼吸器症状を示し、2月28日~4月4日までの間に利用者および職員で、発熱、咳嗽、咽頭痛といった呼吸器症状を訴えるものが、67名(利用者50名、職員17名)にのぼった。発症した利用者の平均年齢は、80.2歳(59~97歳)、職員の平均年齢は、47.2歳(21~66歳)であった。医療機関を受診し、肺炎と診断され入院したのは15名(すべて利用者)で、うち3名が肺炎により死亡した。
調査および検査結果
入院患者15名中9名から3月13日に採取された咽頭ぬぐい液9検体を材料とし、RSウイルス(RSV)のG遺伝子に対しParveenら1)のプライマーによりRT-PCRを行った結果、9検体中6検体から標的とするバンドが検出された。この反応で増幅された 600bpの塩基配列はすべての検体で100%一致した。また、増幅産物のうち330塩基に行った系統樹解析から、遺伝子型はサブグループBのBAに分類された。なお、遺伝子検査を実施したエンテロウイルス属およびヒトメタニューモウイルスは、検出されなかった。
検体が採取された入院患者9名の医療機関で行われた検査では、CT検査で9名すべてに肺炎所見が確認された。また、インフルエンザ迅速キットは検査した4名すべて陰性、尿中レジオネラ抗原検査は9名すべて陰性であったが、尿中肺炎球菌抗原検査は9名中3名陽性であった(表)。さらに、喀痰を用いた細菌検査の結果は、様々な菌が混在するケースが多くみられたが、9名中5名から肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)が検出された(表)。血液検査の結果は、CRP値は平均24.4 mg/dL(4.06~39.37 mg/dL )、白血球数は平均 15,000/μL ( 8,500~23,600/μL)であった(表)。
考 察
有症者が67名にものぼった本事例の主たる原因は、入院患者のうち検体搬入された9名中6名からRSVが検出されたことから、RSV感染であったと推察された。これらの6名は、RSV関連肺炎と考えられ、うち3名は尿中肺炎球菌抗原検査が陽性であり、CRP値の増加および白血球数の増加所見からも、RSVと肺炎球菌の重複感染と考えられた。
RSV感染は、生涯で何度も繰り返し起こるが、乳児期早期での初感染で特に症状が重症化しやすいとされる2)。一方で、成人では通常無症状から感冒様症状のみとされているが、高齢者においてはしばしば重症の下気道炎を起こす原因となることが知られ、特に長期療養施設内での集団発生が問題となる場合があるとされる2)。本事例でも肺炎が多数みられ、3名が死亡していることからも、乳幼児に加え、高齢者に対しても同等の注意および対応が必要である。
RSVの感染経路は飛沫感染、接触感染であることからも、老人福祉施設等の従事者に対し、適切な手指消毒といった標準予防策3)および飛沫感染予防策、接触感染予防策を徹底することが重要である。また、有症者発見時には、隔離等の対応を行うことも感染拡大を抑止するうえでも望ましい。加えて、咳、鼻汁といった感冒症状のある面会者に対しては、面会の自主的な制限やマスクの着用等を行うよう周知することが大切である。
参考文献
1) Parveen S, et al., J Clin Microbiol 44 : 3055-3064, 2006
2) IDWR感染症の話 2004年第22週号
3) 厚生労働省HP 高齢者介護施設における感染対策マニュアル(平成25年3月)
千葉県衛生研究所 小倉 惇 堀田千恵美 仁和岳史 平良雅克 小川知子 一戸貞人
栄陽会東病院 東 秋弘
君津健康福祉センター 橋本裕香 檀谷幸子 岡本恵子