国立感染症研究所

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鹿児島県川薩保健所管内における風しんの流行状況および対策

(IASR Vol. 35 p. 17-19: 2014年1月号)

 

はじめに
2013(平成25)年5月15日の時点における鹿児島県の人口100万人当たり風しん患者の累積報告数は103であり、都道府県別では東京都(155)、大阪府(136)に次いで全国3番目であった。また、鹿児島県内においては川薩保健所管内からの報告が約90%を占めたことから、当保健所は国立感染症研究所とともに管内の風しん流行の全体像の把握、先天性風疹症候群(CRS)対策の検討などを目的に5月30日から共同で以下の実地疫学調査を実施した。

全体像の把握
方法は感染症発生動向調査(NESID)の情報に加えて、当保健所で作成した患者調査票、管内市町・教育事務所・事業所から得られた情報を利用し、管内の流行の全体像を把握した。症例定義はNESIDの症例定義を用いた。

管内の風しん発病週別の報告数は第8週以降増加傾向で推移し、第24週がピーク(42例)であった(図1)。10月2日現在の累積報告数は337例で、第27週以降は10例未満の報告数で減少傾向を示し、第37週以降の発生報告はない。性別は男性が269例(80%)で、そのうち男性の20~40代は212例(63%)であった(図2)。3主徴(発疹、発熱、リンパ節腫脹)が揃って報告された症例は66%で、99%が発疹を呈していた。

337症例のうち検査診断例が195例(58%)で、そのうちPCR確定例が4例であった。流行中期に3人の咽頭ぬぐい液等を採取し、風しんウイルスの遺伝子型の検査を鹿児島県環境保健センターで実施した。そのうち2例が2Bで、2013年の全国的な主流行株と同じであった。

風しん含有ワクチン接種歴は246例(73%)が不明、79例(23%)が無し、1回接種が9例、2回接種が3例であった。学校での集団発生は無かった。

事業所・学校等の所属が判明した141例のうち、医療機関に属する者が6例、その他事業所に属する者が124例(88%)であった。

B事業所内での感染伝播
風しん流行初期に、NESIDに症例26例が長期にわたり報告されたB事業所において、職員への質問紙調査(660人配布、回収率99%)および症例へのインタビュー(17人)を行った。

質問紙調査における症例定義は、診断例(医療機関で風しんと診断されたと回答した者)と、疑い例(医療機関での風しんの診断はされていないが、自己申告で全身性の発疹、または皮膚の発赤がありかつリンパ節腫脹、または発熱の症状を満たしたと回答した者)に分類した。本調査において探知されたB事業所の症例は43例で、そのうち診断例が36例、疑い例が7例であった。B事業所関連の感染伝播の機会は、課内、喫煙所、会議など複数であったことが示唆された。

3月に当保健所は医師会へ風しん流行の周知と風しんの発生届出の徹底を依頼し、B事業所へ風しん流行の注意喚起、予防接種勧奨等の助言を行った。4月にB事業所から再度相談があり、相談に対し当保健所は、職員に対し風しん流行に関する注意喚起と病休取得を助言した。発病から病休取得までの期間の中央値は、3月までが1日で、4月以降が0日であり、4月以降の病休取得までの期間が短縮していた。また、発病日に病休を取得した者は、3月までが29%(5/17)と比べ、4月以降が58%(14/24)で、4月以降の病休取得率が高くなっていた。

症例のインタビューで、ワクチン接種助成を受けなかった理由として、接種の自己負担費用や時間確保が問題点として挙げられた。

CRS対策の検討
流行を探知して以降、当保健所は管内の産婦人科医療機関を訪問し、妊婦の同居家族への情報提供と産褥期のワクチン接種勧奨を依頼、県政広報テレビでCRS予防におけるワクチン接種の重要性を説明する等の対応をとった。また、管内市町と協議し、CRS予防等を目的に5月以降に市町によるワクチン接種費用助成事業が開始された。管内市町の母子保健担当者と協力し、2~4月に母子手帳を取得した妊婦168人に対し、風しん罹患歴、ワクチン接種歴、風しん抗体価等についての質問紙調査を6月中旬に行ったところ、31%において風しんHI抗体価が低かった(32倍未満)。本実地疫学調査の結果を受け、当保健所は管内市町と連携し、風しん抗体価の低い妊婦のフォローアップ等の対策を実施中である。

考 察
管内の流行は、 20~40代の男性が212例で、10月2日時点のNESIDへの累積報告症例数の63%を占め、全国の患者発生報告と同様の性年齢構成であった。この世代は感染症流行予測調査事業において風しん抗体が十分獲得されていないとされている世代であり、この世代への風しんの免疫付与が全国的に重要な対策である。

事業所における風しん患者発生時の対応(特に流行初期)は重要である。事業所は健康管理者と十分な連携を図り、職員の病休の取得、職員への注意喚起を実施することが必要である。また、平時においては事業所の職員が必要なワクチンの接種を受けやすい環境作りが重要であると考えられた。

当保健所は風しん対策のためにNESIDからは得られない事業所名等の情報を医療機関の協力により追加収集をした。追加収集を行った情報は管内の風しん対策に活用された。今後、風しん患者発生時の迅速な対応実施のためにNESIDの発生届出は事業所名等の情報が付加されるような体制整備が必要である。

CRS対策は当保健所管内でのCRSのサーベイランスの強化、CRS児出生時の支援とともに、風しん抗体価の低い妊娠可能年齢女性へのワクチン接種促進が重要である。

謝辞:本事例の調査にご協力いただきました薩摩川内市、さつま町、北薩教育事務所、具志ひふ科クリニック、坂口病院、宮崎小児科、相良医院、久留医院、川内こどもクリニック、済生会川内病院、田島産婦人科、川原産婦人科、河村医院産婦人科内科、医師会の関係者の皆様には調査に関して多大なるご配慮等をいただき、厚く御礼申し上げます。

 

鹿児島県北薩地域振興局保健福祉環境部
  (川薩保健所)
  川上義和 吉國謙一郎 永山広子 揚松龍治    
鹿児島県環境保健センター 濵田結花    
国立感染症研究所
実地疫学専門家養成コース(FETP) 牧野友彦
感染症疫学センター 八幡裕一郎 中島一敏 松井珠乃 大石和徳

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