国立感染症研究所

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本邦における先天梅毒発生予防に向けて
  ―感染症発生動向調査報告症例におけるリスク因子の検討―

(IASR Vol. 34 p. 113-114: 2013年4月号)

 

先天梅毒は、女性が梅毒に感染しないこと、妊娠中に早期診断・治療をすることで発生を防ぎうる疾患である。しかし、適切な治療が行われていない、治療が不十分、妊娠後期に感染したなどの例では胎児の死亡や先天梅毒につながっている。このため、WHOや各国の公衆衛生部門は、感染予防啓発、有効な治療とその完治の確認、パートナーへの検査と治療の勧奨、妊婦健診でのルーチン検査を推奨している1,2)

本邦では前期の妊婦健診で検査が行われているが、前期に陰性の妊婦が分娩までの間に梅毒に感染して先天梅毒となった事例の報告も複数あり、このような症例を経験した臨床医からは「後期の検査もルーチン化すべき」との意見も出ている(IASR 29: 245-246, 2008)。

先天梅毒増加の背景には、地域における生殖可能年齢男女での梅毒の拡大があり、そのリスク因子として、海外ではアルコールや薬物依存、経済的困難などが指摘されている。

本邦において先天梅毒は、感染症法の5類感染症全数把握疾患の「梅毒」の病型〔早期顕症(I期、II期)、晩期顕症、先天梅毒、無症候〕のひとつとして報告されている。その届出様式では上記のようなリスク因子の把握は困難であり、先天梅毒の予防戦略に必要な情報が不足している。2008年において、先天梅毒症例の増加傾向が危惧された(IASR 29: 245-246, 2008)ため、2009年から、各自治体(地方感染症情報センター/保健所)に協力を依頼して、自治体とともに、届出医に対する追加調査を実施している。調査では、母親の検査・治療状況、妊婦健診受診状況、アルコール歴・薬物歴・経済的問題・梅毒以外の性感染症の合併や既往の有無、その他リスク因子と考えられること、パートナーの感染・治療状況等、届出様式にはない事項を検討した。

2009~2013年2月の間に報告された先天梅毒(小児のみ)は16例であり、このうち11例について協力を得ることができた()。

今回の情報は限定的ではあるが、1)健診未受診や中断予防への取り組み、2)妊娠期間中の梅毒を含めた性感染症予防に関する啓発、3)後期健診における再検査、4)パートナーも含めた完治の確認、5)職業上の感染リスクについて性産業への予防啓発等、母子感染を予防するために公衆衛生や医療関係者が取り組むべき課題が示唆された。社会全体として、先天梅毒の根絶を目指すためには、妊婦の感染以前に異性間での流行を阻止する必要がある。梅毒のように根治療法のある性感染症の場合は、積極的にパートナーへの検査勧奨を行い、再感染のリスクを下げることが最優先されるべき対策である。パートナーへの検査勧奨は、平成24年度に改訂された性感染症予防指針3)にも明記されたわが国における性感染症対策の新たな軸である。厚生労働省がホームページに掲載した啓発ポスター等(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/seikansenshou/ )も活用して、医療現場においても確実な治療とパートナーのケアにつなげていく必要がある。

今回の調査にご協力いただいた届出医の皆様に深謝申し上げます。

 

参考文献
1) WHO;Congenital Syphilis Elimination Program http://www.who.int/reproductivehealth/topics/rtis/cs_global_updates/en/index.html
2) The National Plan to Eliminate Syphilis from the United States  http://www.cdc.gov/stopsyphilis/plan.pdf
3)平成24年1月19日官報

 

国立感染症研究所感染症疫学センター 堀 成美 多田有希

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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