国立感染症研究所

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2006~2011年に分離された劇症型/重症溶血性レンサ球菌感染症患者由来株の薬剤感受性

(IASR Vol. 33 p. 213-214: 2012年8月号)

 

劇症型溶血性レンサ球菌感染症(streptococcal toxic shock syndrome: STSS)は、病状の進行が急激かつ劇的で、発病から数10時間以内にショック症状、急性腎不全、成人型呼吸窮迫症候群、多臓器不全、壊死性筋膜炎などを伴う、致死率の高い重篤な感染症である。STSSの治療には、抗菌薬として、ペニシリン系薬剤とクリンダマイシンの大量投与が推奨されている。2006~2011年に分離されたSTSS株311株について薬剤感受性試験を行った。2006~2011年の期間、311株のSTSS株が、溶血性レンサ球菌レファレンスセンターを通じて集められた。薬剤感受性試験は、ドライプレート(栄研化学)を用い、Clinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)の方法に準拠し、ペニシリン系薬剤およびクリンダマイシンを含む11薬剤に対して判定を行った。PCRにより、エリスロマイシンおよびクリンダマイシン耐性株の耐性遺伝子(ermAermBmefA )を検出した。

311株のすべてのSTSS患者分離株において、ペニシリン系薬剤であるアンピシリン、ペニシリンG、その他セファゾリン、セフォタキシム、イミペネム、パニペネム、リネゾリドの7つの薬剤に対して感受性を示した。一方、クリンダマイシンを含む4つの薬剤に対して非感受性株が毎年分離された。治療で推奨されているクリンダマイシンは、毎年5%前後の耐性株が分離されているが、2009年においてクリンダマイシン耐性株の分離比率が15%に増加した(図1)。90%以上のクリンダマイシン耐性株のemm 遺伝子型は、emm12emm28emm75 型であった。これらすべてのクリンダマイシン耐性株は、薬剤耐性遺伝子として、ermB 遺伝子を保有していた。また、エリスロマイシン耐性株も年々増加傾向にあり(図2)、その多くがemm1 であった。シプロフロキサシンやミノサイクリンに対しては10%前後の非感受性株が分離されていた。これら薬剤耐性株は、emm 型と関連性が高いことから、今後も薬剤耐性およびemm 遺伝子型の両面から動向を調査する必要がある。

 

国立感染症研究所 池辺忠義 大西 真
大分県衛生環境研究センター 緒方喜久代
山口県環境保健センター 富永 潔
大阪府立公衆衛生研究所 勝川千尋
神奈川県衛生研究所 大屋日登美
東京都健康安全研究センター 奥野ルミ
富山県衛生研究所 嶋 智子
福島県衛生研究所 千葉一樹

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