国立感染症研究所

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マクロライド系抗菌薬耐性マイコプラズマの病像に関する検討

(IASR Vol. 33 p. 266-267: 2012年10月号)

 

幼児期から青年期の下気道感染症において、マイコプラズマは主要な原因のひとつである。菌自体が細胞壁を持たないことから、マクロライド系やテトラサイクリン系などのタンパク合成阻害薬や、キノロン系などのDNA 合成阻害薬といった抗菌薬が治療に用いられる。歴史的にはマクロライド系が第一選択とされるが、昨今小児領域ではマクロライド耐性マイコプラズマが増加傾向にある1) 。マクロライド系の作用部位は23S rRNAのドメインVで、中でも重要なのは2063番と2064番の塩基である2) 。実際に既報でのマクロライド耐性株はほとんどがA2063Gである。今までにマクロライド耐性株が非耐性株よりも重症化しやすいという報告はない3) が、マイコプラズマ感染症はサイトカイン・ストームを惹起して劇症化することもあり、重症化への関与は懸念されうるところである。

2007年4月1日~2012年7月30日までに当院において喀痰培養でMycoplasma pneumoniae が検出され、下気道症状を示した15歳未満の50例を対象とし、マクロライド耐性の有無を検索した。当院でのマクロライド耐性株の遺伝子変異はすべてA2063Gであったため、A2063G変異群(37例)と非変異群(13例)に分け、それぞれ酸素投与やステロイド投与を要したかどうか、胸水を認めたかどうか、有熱期間、CRPについて比較検討した。前三者のうち酸素投与の有無についてはχ2検定を、ステロイドおよび胸水の有無に関してはFisherの直接検定を、後二者についてはt検定を用いた。

変異群と非変異群における酸素投与はそれぞれ21例と5例が必要とし、ステロイドは4例と2例、胸水は8例と3例で認めた。また、有熱期間の平均値は10.22日と7.08日、CRPの平均値は2.2mg/dlと3.6mg/dlであった。このうちA2063G変異群における有熱期間は非変異群に対して有意に長かった(p=0.008)ものの、その他に関しては統計学的な有意差は認めなかった。

以上より、マクロライド耐性菌と感受性菌において、酸素やステロイドの投与を要する割合に差異はなく、どちらかの群で重症例が多いという結果ではなかった。有熱期間は耐性菌で有意に長かったが、これは既に報告されているように耐性菌は解熱までの期間が約2日程度長い3) ということや、他剤へ変更するまでの期間などが関係している可能性がある。現時点ではマクロライド耐性菌に有効とされる他の抗菌薬を優先するという根拠に乏しく、今後さらなる症例の蓄積が求められるものの、マイコプラズマ感染症におけるマクロライド系抗菌薬の重要性に変わりはないと考えられる。

 

 参考文献
1) Stephen GB, Mycoplasma pneumoniae and Atypical Pneumonia. In: Mandell GL, et al. (eds): Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases, 7th edition. Elsevier Churchill Livingstone, Philadelphia
2)諸角美由紀, 他,日本臨牀 70(2): 251-255, 2012
3)成田光生,日本胸部臨床 67(7): 580-590, 2008

 

倉敷中央病院 和田陽一

 

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