国立感染症研究所

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肺炎マイコプラズマの実験室診断

(IASR Vol. 33 p. 268-269: 2012年10月号)

 

概 説
Mycoplasma pneumoniae の検査法は他の細菌に比べてやや特殊で煩雑である。特に分離培養法は専用の培地を必要とし、他の細菌に比べると増殖も遅いことから、実施されることが少ないのが現状である。医療機関では主に血清学的診断が行われているが、本稿では主に実験室で行われるM. pneumoniae の検出検査法について述べる。なお、各方法の詳細については国立感染症研究所(感染研)ホームページ(http://www.niid.go.jp/niid/ja/reference.html)から入手できる病原体検出マニュアル「マイコプラズマ肺炎」を参照されたい。

検体の採取と輸送
マイコプラズマ肺炎が疑われる患者由来の検体は、咽頭スワブ、鼻咽頭スワブ、喀痰が主である。M. pneumoniae は乾燥や温度変化に弱く死滅しやすいので、培養法を行う場合は、検体採取後すみやかな検査開始が望ましい。検体を検査機関に送る場合は、採取後すぐに適切な輸送培地に入れ常温で輸送する。輸送培地に入れた後、冷凍保管する場合は-20℃以下(-80℃以下が望ましい)に保管し、なるべく早く検査開始する。4℃での保管は菌が死滅しやすいので避けたほうが良い。培養法を目的としない場合でも、上記の方法に準じた検体の扱いをしたほうが検出率が良い。

検出検査法
a)培養法
培養法は専用培地(PPLO培地)の調製も必要なことから、実施されないことが多い。しかし、手順を習得すればむずかしい検査法ではなく、判定までの時間はかかるものの、菌の検出同定法として確実な方法である。菌株を分離しておくことにより、薬剤感受性の検査や遺伝子解析にもとづく疫学調査なども実施できる。適切な方法で輸送と培養が行われた場合、培養法は遺伝子検出法と同程度の感度を示す。検体到着後は速やかにPPLO液体培地と寒天培地に接種することが重要である。輸送培地中に明らかに雑菌の増殖が認められる場合には(雑菌の増殖で輸送培地が濁っているような場合)、軽く培地をスピンダウンし上清を培養する。M. pneumoniae は他の細菌より小さいため0.45μmのフィルターを通過する。検体を0.45μmフィルターに通した後に培養を行うと、雑菌の影響を除くのに有効なときがある。しかし、フィルターろ過によって培養に供される菌数は低下するので、M. pneumoniae が少ない検体では検出率を下げる場合もある。培養は37℃で行い、菌が増殖するまで早くても1週間、長い場合には1カ月以上かかる。この間、特に寒天培地は乾燥しないよう注意する。湿潤箱を使用するか、ぬらしたペーパータオルを入れたビニール袋に寒天培地を入れ乾燥を防ぐ。毎日観察を行い、液体培地は赤から黄色への培地の色調変化を観察する。M. pneumoniae は、増殖しても液体培地に濁りがほとんど生じない。培地が濁った場合は雑菌の増殖によると考えられる。判定時の色調比較のため、必ず検体を接種しなかった培地も培養しておく。M. pneumoniae の選択分離率を良くするため、培地にメチレンブルーを加えることもある。また、PPLO寒天培地の上にPPLO液体培地を重層した二層培地を用いることもある。メチレンブルーを加えた二層培地では、菌の増殖によって液体部分が深緑から黄緑色に、寒天培地部分が深緑色からオレンジ、黄色へと色調変化する。寒天培地上のM. pneumoniae のコロニーは微小なため実体顕微鏡で観察し、M. pneumoniae に特徴的な目玉焼き様のコロニー出現を確認する。菌の増殖が確認されたら、血球吸着試験やPCR法などでM. pneumoniae の同定を行う。菌株の保存は、菌が増殖したPPLO培地を-80℃で冷凍保存する(完全に培地が黄色になる前のオレンジ色の時点での保存がよい)。PPLO液体培地は馬血清を含むため、そのまま凍結保存しても菌は死滅しない。

b)遺伝子検出法
遺伝子検出法ではReal-time PCR法1) 、Nested PCR法2) とLAMP法3) が主に行われている。使用するプライマーにもよるが、各法の感度と特異性はほぼ同等である。これらの方法を適用する検体は、適切なキットなどでDNA抽出を行い試料とする。試料中に雑菌由来やヒトの細胞由来のDNAが多いと、検出感度と特異度が低下することがある。培養法と同様に検体を0.45μmフィルター通過させることにより、この影響が少なくなることもある。検査手順が最も簡便なのはLAMP法である。LAMP法は2011年10月より保険適用となっている。

マクロライド耐性の検査
現在、臨床でのマクロライド耐性M. pneumoniae の広がりが問題となっている。マクロライド耐性の確認は、原因となる23S rRNA遺伝子ドメインV領域の点変異の有無を調べることにより確認できる4) 。この分析は、臨床検体から直接行うことも可能だが、分離菌が得られていた方が容易に実施でき、成功率も高い。分離菌がある場合は、抗菌薬の最小発育阻止濃度(MIC)も調べることができる。MICは通常、微量液体培地希釈法で測定する。96ウェルのプレートに薬剤を2倍段階希釈した培地を分注し、そこに、一定の菌数に調製した分離菌の菌液を加えて培養する。MICは培地の色調変化で判定する。

まとめ
M. pneumoniae の検出検査法は、実施施設ごとに採用している方法が異なると思われるが、参考として現在、感染研・細菌第二部で行っているM. pneumoniae の検出検査を1例として示す。当部では主にスワブ検体について培養法とLAMP法で検査を行っている。LAMP法ではその日のうちに結果判定ができる。一方、培養法は時間がかかるが、検体の状態がよければ、LAMP法の結果とほぼ同等の結果が得られる。しかし、まれにLAMP法が陰性でも培養陽性となることがあるので、すべての検体について培養法を実施している。培養で陽性の検体については、必要に応じて分離菌の性状検査、遺伝子型別、薬剤耐性の検査を行うことにしている。

 

参考文献部
1) Morozumi M, et al., Can J Microbiol 52: 125-129, 2006
2) Kenri T, et al., J Med Microbiol 57: 469-475, 2008
3)吉野,他, 感染症学雑誌 82: 168-176, 2008
4) Matsuoka M, et al., Antimicrob Agents Chemother 48: 4624-4630, 2004

 

国立感染症研究所細菌第二部 堀野敦子
神奈川県衛生研究所微生物部 大屋日登美

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