国立感染症研究所

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2010/11シーズンのインフルエンザ予防接種状況および2011/12シーズン前のインフルエンザ抗体保有状況-2011年度感染症流行予測調査より

(IASR Vol. 33 p. 294-297: 2012年11月号)

 

はじめに
感染症流行予測調査事業は厚生労働省健康局結核感染症課を実施主体とする予算事業であり、健康局長通知に基づいて、全国の都道府県と国立感染症研究所が協力して毎年度実施している。そのうちのインフルエンザ感受性調査は、インフルエンザの本格的な流行が始まる前にインフルエンザに対する国民の抗体保有状況を把握し、抗体保有率が低い年齢層に対するワクチン接種の注意喚起ならびに今後のインフルエンザ対策における資料とすることを目的としている。

対象と方法
2011年度の調査は、北海道、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県、静岡県、愛知県、三重県、京都府、山口県、愛媛県、高知県、佐賀県、熊本県、宮崎県の25都道府県から各198名、合計4,950名を対象として実施された(予防接種歴調査は上記都道府県に宮城県、香川県、福岡県を加えた28都道府県で実施された)。インフルエンザに対する抗体価の測定は、対象者から採取された血液(血清)を用い、調査を実施した都道府県衛生研究所において赤血球凝集抑制試験(HI法)により行われた。採血時期は原則として2011年7~9月(インフルエンザの流行シーズン前かつワクチン接種前)とした。また、HI法に用いたインフルエンザウイルス(調査株)は以下の4つであり、このうち(1) ~(3) は2011/12シーズンのインフルエンザワクチン株として選ばれたウイルス、(4) はワクチン株とは異なる系統のB型インフルエンザウイルスであるが、2012/13シーズンのインフルエンザワクチン株として選ばれたウイルスである。

 (1) A/California/7/2009[A(H1N1)pdm09亜型]
 (2) A/Victoria/210/2009[A(H3N2) 亜型]
 (3) B/Brisbane/60/2008[B型(Victoria系統)]
   (4) B/Wisconsin/1/2010[B型(山形系統)]

結 果

1.2010/11シーズンにおけるインフルエンザ予防接種状況
2011年度の調査において2010/11シーズンの予防接種状況について調査が行われ、 7,875名の結果が得られた。年齢あるいは年齢群別に未接種者、1回接種者、2回接種者、回数不明接種者、接種歴不明者の割合を図1に示した。接種歴不明者を除くと1回以上の接種歴を有していたのは全体で53%(1回接種者:29%、2回接種者:12%、回数不明接種者:12%)であり、各年齢あるいは年齢群のほとんどにおいて半数以上が1回以上のワクチン接種者であった。特に2歳~11歳および70歳以上では、接種歴不明者を除くと約7割の者が1回以上の接種歴があった。また、1~12歳は他の年齢層と比較して2回接種者の割合が高く、接種回数が明らかな者(1回および2回接種者)のみで比較すると、67~86%(平均78%)が2回接種者であった。

2.2011/12シーズン前のインフルエンザ抗体保有状況
2011年度の調査は合計で7,049名[A(H3N2) 亜型は7,048名]の対象者についての結果が報告された。年齢群別の対象者数は、0~4歳群908名、5~9歳群586名、10~14歳群634名、15~19歳群632名、20~24歳群534名、25~29歳群619名、30~34歳群577名、35~39歳群555名、40~44歳群464名[A(H3N2)亜型は463名]、45~49歳群375名、50~54歳群357名、55~59歳群307名、60~64歳群307名、65~69歳群100名、70歳以上群94名であった。図2は調査株別の年齢群別インフルエンザ抗体保有状況である。なお、本稿における抗体保有率とは、感染リスクを50%に抑える目安と考えられているHI抗体価1:40以上の抗体保有率とした。

A(H1N1)pdm09亜型に対する抗体保有率は全体で49%であり、年齢群別にみると5~24歳の各年齢群は60%以上の抗体保有率であり、多くが40%未満であった他の年齢群と比較して高かった。また、A(H3N2) 亜型に対する年齢群別の抗体保有率は、A(H1N1)pdm09亜型と同様の傾向がみられたが、年齢群間の差はそれほど顕著ではなく、5~24歳以外のほとんどの年齢群でも40%以上の抗体保有率を示し、全体では50%の抗体保有率であった。一方、B型についてみると、Victoria系統では多くの年齢群で40%以上であり、全体では45%とA型と同等の抗体保有率であったのに対し、山形系統ではすべての年齢群で40%未満であり、特に10~20代以外の年齢群では20%未満を示し、全体でも18%と調査株中最も低い抗体保有率であった。

3.インフルエンザ抗体保有状況の年度別比較
型・亜型別のインフルエンザ抗体保有状況について、2010年度と2011年度を比較したグラフを図3に示した[A(H1N1)pdm09亜型およびB型(Victoria系統)については2009~2011年度の3年を比較]。

A(H1N1)pdm09亜型に対する抗体保有状況は、3年続けて同じ株について調査が行われたが、2009年度は15~19歳群を除くすべての年齢群で20%未満であり、多くの年齢群で10%未満であった。しかし、2010年度はすべての年齢群で抗体保有率は上昇し、特に5~9歳群で55ポイント、10~14歳群で62ポイント、15~19歳群で43ポイント、20~24歳群で40ポイントと他の年齢群と比較して大きく上昇していた。2011年度はさらに上昇し、年齢群によって4~21ポイントの上昇がみられた。A(H3N2) 亜型については両年度で同じ調査株が用いられ、2011年度は2010年度と比較してすべての年齢群で抗体保有率の上昇がみられた(3~18ポイント)。B型のVictoria系統は2009~2011年度まで同じ株に対する抗体保有状況が調査され、2009年度と2010年度は30~40代前半における抗体保有率のピークや各年齢群の抗体保有状況が類似していたが、2011年度は10代でもピークが認められ、全体の抗体保有率は2010年度と比較して12ポイント上昇していた。山形系統は両年度で調査株が異なるため一概に比較することはできないが、10代後半から20代前半における抗体保有率のピークは両年度とも認められた。

4.予防接種歴別のインフルエンザ抗体保有状況
図4は2010/11シーズンの予防接種歴別に比較した抗体保有状況である。調査株ごとに1回以上(1回、2回、回数不明)接種者と未接種者の抗体保有率を年齢群別に示したが、A(H1N1)pdm09亜型、A(H3N2) 亜型、B型(Victoria系統)については、すべての年齢群で未接種者より1回以上接種者のほうが高かった。全体での比較では、A(H1N1)pdm09亜型で28ポイント(1回以上接種者-未接種者:62%-34%)、A(H3N2) 亜型で17ポイント(60%-43%)、B型(Victoria系統)で17ポイント(53%-36%)の差がみられた。一方、B型(山形系統)においては、1回以上接種者(20%)と未接種者(17%)の抗体保有率に大きな差はみられなかった。

考 察
A型インフルエンザに対する抗体保有率について、5~24歳の各年齢群は他の年齢群と比較して高かったが、この年齢層は学校等の集団生活においてインフルエンザウイルスに曝露される頻度が高いことから、調査以前の流行による影響を反映し、高い抗体価を維持していると考えられた。すなわち、2009年度に低かったA(H1N1)pdm09亜型に対する抗体保有率は、2009/10シーズンの大流行を受けて2010年度には大きく上昇し、翌2010/11シーズンにも引き続きみられた流行により2011年度のさらなる上昇につながったと考えられた。また、A(H3N2) 亜型についても2010/11シーズンの流行の影響により、2011年度の抗体保有率が前年度より高くなったと考えられた。さらに、B型(Victoria系統)においても2011年度の抗体保有率は、2010/11シーズンの流行が影響していると考えられたが、抗体保有率のピークを示す年齢層がA型とは異なっており、型・亜型(系統)別流行状況の年齢分布等を合わせた検討が必要と考えられた。一方、B型(山形系統)について、2011年度の調査株に用いたB/Wisconsin/1/2010は山形系統における近年の代表株であるが、2010/11シーズンに流行はほとんどみられなかったことから、他の調査株と比較して低い抗体保有率であったと考えられた。

予防接種歴別の比較においては、A(H1N1)pdm09亜型、A(H3N2)亜型、B型(Victoria系統)で未接種者より1回以上接種者の抗体保有率が高かったが、これは2010/11シーズンのワクチン株が2011年度の調査株と同じウイルス株であったことから、従来半年程度とされているワクチン接種後の抗体保有が調査時(採血時)に持続していたこと、および2010/11シーズンのワクチン接種後にワクチン株と抗原性が類似するウイルスの曝露を受け、ブースター効果により抗体価が高く維持されていたことが要因として考えられた。また、B型(山形系統)については、2010/11シーズンのワクチンには含まれていないことから、接種歴による抗体保有率に差がみられなかったと考えられた。

これから流行を迎える2012/13シーズン用のワクチン株は、A(H1N1)pdm09亜型以外は前シーズンから変更となり、特にB型は4シーズンぶりに山形系統(B/Wisconsin/1/2010)がワクチン株に選定された。山形系統は2011/12シーズンに一部で流行がみられたことから、2011年度調査以降に抗体を保有した者がいる可能性はあるが、2011年度調査における低い抗体保有率を踏まえると、今後の予防接種による抗体保有率の上昇が期待される。

最後に、本調査にご協力頂いた都道府県ならびに都道府県衛生研究所をはじめ、保健所、医療機関等、関係機関の皆様に深謝申し上げます。

 

国立感染症研究所感染症情報センター
佐藤 弘 多屋馨子 大石和徳
国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター
岸田典子 徐 紅 伊東玲子 土井輝子 菅原裕美 小田切孝人
2011年度インフルエンザ感受性調査・予防接種歴調査実施都道府県:
北海道、宮城県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、神奈川県、
新潟県、
富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県、静岡県、愛知県、三重県、京都府、
山口県、香川県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、熊本県、宮崎県

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