(IASR Vol. 34 p. 187: 2013年7月号)
小児における侵襲性H. influenzae 感染症の臨床像侵襲性H. influenzae type b(Hib)感染症予防に有効なHibワクチンは2008年12月に日本に導入されたが、導入後の2009~2012年の期間に千葉県では101例の侵襲性H. influenzae 感染症が認められている。このうちHibワクチン既接種者は5名(5.0%)のみで、追加免疫まで4回のワクチン接種を終了している者の発症者は認められていない。症例数は、Hibワクチン導入早期に多く、2011年2月にワクチンの公費助成が全県的に導入されて以降、症例数は減少している(2009年:32例、2010年:48例、2011年:14例、2012年:7例)。 101例の内訳をみると、髄膜炎が60例と最も多く、ついで、菌血症を伴う肺炎の16例、菌血症13例、蜂窩織炎4例、関節炎4例、喉頭蓋炎3例、深頸部膿瘍1例の順となっていた(図1)。小児の侵襲性H. influenzae 感染症の特徴は、特に2歳以下の乳幼児に多いこと、髄膜炎が主体であることがあげられる。また、重要な点として、全体の症例数としては少ないものの、小児の化膿性関節炎、蜂窩織炎、急性喉頭蓋炎の主要な原因菌であり、これらの症例を診た場合にはインフルエンザ菌を念頭においた診断、治療を行う必要がある。主な疾患の臨床的特徴を以下に示す。
髄膜炎:髄膜炎は、感冒様症状に続き、発熱、嘔吐、易刺激性からけいれん、意識障害へと進行する。乳幼児では項部硬直などの髄膜刺激症状ははっきりせず、初期診断は困難な場合が多い。
化膿性関節炎:化膿性関節炎は血行性に散布し、膝、肘、股関節などの大関節が侵されやすい。H. influenzae によるものは乳幼児に多く、局所所見の出現前に上気道炎や中耳炎が先行するのが特徴である。局所症状としては、罹患関節の腫脹、発赤、疼痛、可動域制限、跛行などを認める。乳幼児では、おむつ替えのときに泣く、四肢を動かさないなどの症状で気づかれることもある。
蜂窩織炎:蜂窩織炎の好発部位は頬部や眼窩部である。上気道炎症状が先行し、急激な経過で局所の膨隆、熱感、圧痛が出現する。感染が進行すると軟部組織の紫がかった発赤、腫脹を呈するようになる。中耳炎の合併が多く、中耳の感染から頬部リンパ節への伝播も推定されている。眼窩蜂窩織炎は副鼻腔炎を伴うことがある。
急性喉頭蓋炎:急性喉頭蓋炎は発熱、摂食障害、唾液が飲み込めない、数時間のうちに急激に進む呼吸困難、頭部を前方に突き出す姿勢などが特徴的な臨床症状とされる。急激に上気道閉塞を来たし、適切に気道確保がなされないと致死的になるため、集中治療管理が行える体制を整え診察することが必要となる。
莢膜型解析の重要性
莢膜型(血清型)別は従来抗血清を用いて行われていたが、近年より感度の良いpolymerase chain reaction(PCR)法が推奨されている。我々がHibワクチン導入前、PCR法を用いて血液や髄液から分離されたH. influenzae について検討したところ、小児の侵襲性H. influenzae 感染症全体の88.7%がHibによるものであり、髄膜炎では95.1%がHibによるものであった。血清型別でHib以外と同定された株による髄膜炎はnon-typable H. influenzae(NTHi)によるものであったが、いずれも外傷後に発症した症例であった。また、b型以外の莢膜型としてはe型株による菌血症が1例認められたのみであった1)。海外においては、Hibワクチンの普及後全体の症例数は激減したものの、Hib以外の莢膜型とNTHiが侵襲性H. influenzae 感染症の主体となってきている。また、罹患する年齢層も相対的に高齢者が増加するといった変化が認められている2)。Hibワクチン導入後、日本においても同様な状況となる可能性が高く、実際千葉県において、侵襲性H. influenzae 感染症から分離された菌株中のHibの割合は年々低下傾向が認められている(2009年:100%、2010年:86.6%、2011年:84.6%、2012年:57.1%)。Hibワクチン普及後、侵襲性H. influenzae 感染症から分離された菌株の血清型解析はワクチンの有効性を正しくはかる意味において特に重要となる。また、Hib以外の病原性の高いH. influenzae の出現を監視する上でも必要である。2013年4月から侵襲性H. influenzae 感染症は成人も含め、感染症法の5類感染症、全数届出が必要な疾患となった。診断した医師は、Hibワクチンの接種歴を確認するとともに、必ず分離された菌株を保存しておき、血清型を確認していただくよう強くお願いしたい。
参考文献
1) Ishiwada N, et al., Clin Microbiol Infect 10: 895-898, 2004
2) MacNeil JR, et al., Clin Infect Dis 53: 1230-1236, 2011
千葉大学医学部附属病院感染症管理治療部 石和田稔彦