A型肝炎ヨーロッパでの流行状況
(IASR Vol. 36 p. 9- 10: 2015年1月号)
2012年11月1日~2013年4月30日までに、ヨーロッパの14カ国から104例(確定例:15例、可能性例:89例)のA型肝炎が報告され、全例がエジプトへの渡航歴を有していた。詳細が判明した83例中47例(57%)が女性で、年齢中央値は40歳(範囲:4~76歳)であった。最終的に11例が入院し、2例が死亡した。さらにA型肝炎ワクチン接種歴が判明したものが68例で、全例に接種歴を認めなかった。流行曲線からは、症例数がベースラインよりも有意に増加しており、確定例を報告した英国、オランダ、ノルウェーの3カ国で分離された株のシークエンスはすべて同一であったことから、複数の国にまたがったA型肝炎のアウトブレイクと考えられた。
今回のA型肝炎の遺伝子型はIBで、配列解析は2つの異なった遺伝子領域に行い、VP1/2PA連結領域の441ヌクレオチド配列解析とフラグメント解析およびVP1領域からの2番目の446ヌクレオチド配列解析を行った。
症例数のピークは2013年第6週(図1)で、これは冬休みによって旅行者が増加したことが原因と考えられた。分布をみると3波に分けられ、発生源が持続している可能性が考えられた。調査の結果、共通の感染源である可能性が示唆されたものの、感染源は同定できなかった。同時期にみられていたノルウェーでのA型肝炎のアウトブレイクとの関連は認めなかった。
流行地域への渡航者にワクチンの接種を推奨しているが、ワクチンを接種している人はほとんどおらず、ワクチン接種の推奨をさらに強化する必要性が示された。さらに、A型肝炎患者の接触者に対するワクチン接種も考慮するべきであると考えられた。
2013年1月以降、ドイツ、オランダ、ポーランドから15例のA型肝炎確定例が報告された。すべての症例がイタリア北部のトレントとボルザノに旅行しており、報告日は2月~4月中旬で、3月中旬が最も多かった。同時期にイタリアでは国内におけるA型肝炎症例数の増加を認めた。2013年上半期は過去3年の同時期(平均190例)と比べ、200例以上多くの症例数が報告された(図2)。この増加は今回のアウトブレイクと関連している可能性が高かった。イタリア北部で症例対照研究が行われ、2013年6月10日時点では、ベリー喫食のオッズ比が5.33(95%信頼区間:2.14-13.24)と高いことが示されている。イタリアへの旅行歴がある7例とイタリア国内の19例で、遺伝子型IAが同定され、すべて同一のシークエンスであった。ドイツではVP1-2A ジャンクション領域の349ヌクレオチド、ドイツ以外では同領域の440ヌクレオチドの配列解析を行った。オランダでのアウトブレイク株は2008年のチェコ・プラハでのアウトブレイクのものと同一株であった。
またアイルランドでは、イタリアへの旅行歴はないが、同一配列を示した3例が報告された。年齢は30~40歳で、互いにリンクはなく、2例は海外渡航歴なし、1例はポーランドへの渡航歴があった。VP1-2A領域の505ヌクレオチド配列解析を行った。全員がイタリア関連のアウトブレイクと同期間に冷凍ベリーを喫食していた。
イタリアでの調査の結果、冷凍庫でみつかったベリーの一つからA型肝炎ウイルスが分離・同定され、VP1-2A領域の440ヌクレオチド配列解析を行い、同一であった。この結果から、イタリアで生産された冷凍ベリー(ベリーはカナダ原産)の回収がなされたが、この製品自体からはA型肝炎ウイルスは分離されなかった。また、同時期に北欧4カ国とエジプトに関連(上述)するA型肝炎アウトブレイクがみられたが、今回のアウトブレイク株との関連はみられなかった。
国立感染症研究所感染症疫学センター
加藤博史 八幡雄一郎