トラベラーズワクチンとしてのA型肝炎ワクチン
(IASR Vol. 36 p. 10- 11: 2015年1月号)
A型肝炎ワクチンの適応
近年わが国でA型肝炎の発生は少ないが、世界的には発展途上国を中心に流行しており、こうした地域に渡航する者が接種の適応となる。とくに都市部以外の衛生状態の悪い場所に滞在する者には強く推奨する1)。
その他、A型肝炎患者と接触機会が多い医療従事者、A型肝炎ウイルスの抗体を持たない基礎疾患(慢性肝疾患など)を有する者、男性同性愛者などが接種対象者として挙げられる2)。
トラベラーズワクチンとしてのA型肝炎ワクチン
主な流行地域はアジア、サハラ砂漠以南のアフリカ、中南米であり(図)、これらの地域への渡航者にはA型肝炎ワクチンの接種を推奨する。以前は免疫グロブリンが使用されていたが、現在では推奨されない。
日本のA型肝炎ワクチン(エイムゲン®)
日本のA型肝炎ワクチン(エイムゲン®)は、不活化ワクチンである。アフリカミドリザル腎臓由来細胞で培養したA型肝炎ウイルス (KRM003株)を高度に精製し、不活化後安定剤を加え、凍結乾燥したワクチンである。アジュバントは含まれない3)(表1)。
接種回数は3回で、接種スケジュールは0.5mLずつを2~4週間間隔で2回、筋肉内または皮下に接種する。さらに、初回接種後24週を経過した後に0.5mLを追加接種する(表2)。
なお、エイムゲン®の使用適応が、2013年3月から16歳未満の小児(主に1歳以上)へも拡大された。小児への用法、用量も成人と同様である。接種方法は皮下または筋肉内に接種する。添付文書上も、筋肉注射することが小児を含めて認められた。
10歳以上の健康者を対象に実施された臨床試験の結果によれば、A型肝炎ワクチンを2~4週間隔で2回接種後の抗体陽転率は100%で、平均抗体価が約500mIU/mlだった。6カ月後に平均抗体価は約200mIU/mlまで低下するが、この時点で3回目の接種をすると約3000mIU/mlに上昇した4)。5年経過後でも約400mIU/mlの抗体価が保たれていた5)。16歳未満の小児を対象とした臨床試験でも、A型肝炎ワクチン0.5 mLの2回接種後に、抗A型肝炎ウイルス抗体陰性者(55名)の100%が抗体陽性となった6)。
10歳以上に対して筋肉内接種と皮下接種の有効性と安全性を比較した臨床試験では、3回接種(0週、4週、24週に接種)群では、2回目接種以降、抗体陽転率は筋肉内接種、皮下接種群とも100%となった。平均抗体価は、筋肉内接種群が皮下接種群より高い値で推移し、初回接種後28週では、筋肉内接種群(3,388 mIU/mL)が皮下接種群(2,344mIU/mL)に対し、有意に高い値となった4)。
副反応に関しては、10歳以上の健康人を対象とした臨床試験において、延べ接種例数2,710例中162例(6.0%)に副反応が認められた。 主な副反応は、全身倦怠感(2.8%)、 局所の疼痛(1.6%)、局所の発赤(1.0%)、発熱(0.6%)、頭痛(0.5%)などであった4)。 16歳未満の小児に対する臨床試験での副反応は、総接種数678例中12例(1.8%)で認められ、その内容は、発熱(0.6%)、局所の発赤(0.6%)、全身倦怠感(0.4%)および疼痛(0.4%)などであり、重篤なものはなかった6)。
海外のA型肝炎ワクチン(表1&2)
海外で使用されている主なA型肝炎ワクチンも不活化ワクチンであるが、各社のワクチンは、ワクチンの製造に用いたウイルス株、ウイルスの遺伝子型、アジュバントの有無が異なる7)。また、海外のA型肝炎ワクチンの接種回数は2回で、初回接種後、6カ月以降に2回目を接種する。接種方法は筋肉内に接種する8)。なお、海外のA型肝炎ワクチンの間では、ワクチンの互換性に問題ないことが報告されている9)。
トラベラーズワクチンとしてのA型肝炎ワクチンの今後の課題と期待
日本のA型肝炎ワクチン(エイムゲン®)と海外のA型肝炎ワクチンの互換性を明確にした研究はなく、今後の研究が期待されている。一般的には、A型肝炎ウイルスの遺伝子型は6種類あるが、血清型は1種類のみであるため、互換性はあると考えられている。
また、海外ではA型肝炎とB型肝炎が混合されたワクチンや、A型肝炎と腸チフスが混合されたワクチンが使用されており、今後、日本での承認が期待されている。
- CDC, Epidemiology and Prevention of Vaccine- Preventable Diseases, The Pink book: Course Textbook, 12th Edition Second Printing, 2012
- CDC, Health Information for International Travel, The Yellow book, 2014
- A型肝炎エイムゲン添付文書
- 飯野四郎,他,基礎と臨床27: 237-244, 1993
- 遠藤 修, 他, 臨床とウイルス 25: 43-47, 1997
- 白木和夫,他,小児内科27:313-319, 1995
- 石井孝司,他, BIO Clinica 28:321-325, 2013
- Plotkin SA, et al., Vaccine 6th ed, Elsevier, 2013
- WHO, Weekly Epidemiological Record 87: 261-276, 2012
東京医科大学病院渡航者医療センター
福島慎二 濱田篤郎