国立感染症研究所

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夏のB型インフルエンザウイルスによる高齢者施設集団発生事例―沖縄県

(IASR Vol. 36 p. 209-210: 2015年11月号)

2015年7月末~8月初めにかけて、これまで報告の乏しい、夏のインフルエンザB型の集団発生事例を経験した。患者はすべて高齢者施設入居者で、呼吸器疾患、腎機能異常、貧血、低栄養状態等の基礎疾患の合併の多い、ハイリスクグループであったが、今回のインフルエンザの経過で死亡に至る重篤な合併症は認めなかった。

はじめに
インフルエンザの流行には季節性があり、温帯および寒帯地域に位置するわが国の大部分の地域では冬季にインフルエンザの流行がみられる1)。一方、東南アジアでは雨季にインフルエンザの流行がみられることが知られ、亜熱帯地域に位置する沖縄県でも夏季にインフルエンザの流行がみられ、その際インフルエンザB型が中心となる場合があることが報告されている2)。しかし、国内における夏季のインフルエンザB型の施設内集団発生事例は我々が検索し得た限り報告がなかった。そのため、今回経験した当該事例を報告するとともに、その患者背景を調査した。

インフルエンザB型集団発生の経過
沖縄県那覇市内の高齢者施設のA棟(入所者44名)において、7月24日に施設入所者2名が37.5℃以上に発熱し、診断キットでインフルエンザB型と診断され治療された。その後、入所者の発熱が相次ぎ、最終的に41名が発熱した(発症率;93%)。入居者における発症者(37.5℃以上)の状況を流行曲線()に示す。診断キット陽性者は最終的に計33名に上った(発症者の80%)。8月1日については、多数の発熱者が発生したため、それまでの未検査者19人全員を対象に診断キット検査を行った。その結果、発熱者16名中8名が、診断キットでB型陽性と判定された。この8名と診断キット陰性の発熱者9名に対して治療としての抗インフルエンザ薬投与を開始し、さらに未発熱の診断キット陰性者2名に対しても予防内服を行った。以後、入所者における新規のインフルエンザ発生は無かった。なお、7月22日と23日に介護職員各1名がインフルエンザB型と診断されていた。

今回、インフルエンザ感染による入院者および死亡者は出ていない。インフルエンザの2次感染による細菌性肺炎が4例みられ、2例が入院加療を受けた(9%)。治療を行った42例に対して、オセルタミビルを37例に投与し、発症時に経口摂取が困難であった5例にペラミビルを使用した。職員への2次感染は1名のみであった。同施設内には、入所者の行き来のないB棟(入所者100人)があるが、発症者はみられなかった。

入所者のインフルエンザに対するハイリスク者の検討 
入所者の患者背景について調べた。入所者は男性が25名で女性が19名の計44名で、平均年齢が83.9歳、最年少が67歳、最年長が99歳であった。基礎疾患として、気管支喘息で投薬を受けていた者が8名(18%)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)で投薬を受けていた者が1名(2%)であった。慢性循環器疾患治療者が4名(9%)であった。2015年5月29日施行の検診時の血液検査結果では、全入所者44名中、クレアチニン値が1.0以上の腎機能障害を13人(30%)に認め、ヘモグロビンA1cが6.0%以上の耐糖能異常を認めたものが5名(11%)、血清アルブミン値が4.0mg/dL以下の低栄養状態のものが38名(86%)であった。また、ヘモグロビンが男性で13.0g/dL以下、女性で12.0 g/dL以下の貧血を認めたものが、計22名(50%)であった。入所者は、2014年11月に全員インフルエンザの予防接種を受けていた。

考 察
インフルエンザB型の集団発生の報告は少なく、報告も冬季発生例を中心としている3)。今回の夏季のインフルエンザB型の集団発生は、当地が夏季にもインフルエンザが流行することが多くなってきた地理的要因が影響を与えた可能性が考えられる4)

インフルエンザは、高齢者、腎機能障害、循環器、呼吸器疾患、糖尿病を基礎疾患とする者で重症化しやすいことが知られている1,5)。今回、入所者はすべて高齢者であり、また、血清アルブミン低値の低栄養状態者、貧血等の所見を持つ者が多いハイリスクグループであった。インフルエンザB型においても重症の合併症症例の報告6)もあるが、幸いにも今回の症例は、2次感染による細菌性肺炎が4例みられた以外には、死亡などの転帰をとる重篤な合併症は認めなかった。

高齢者施設では、ハイリスクグループの存在や施設内の集団生活といった特殊な環境のため、いったん、インフルエンザウイルスが持ち込まれると、集団発生対策には困難な面がある7)。施設内流行対策には、ワクチンの定期接種の実施、抗ウイルス薬の予防投与を含む早期の使用、普段からの入所者を取り巻く環境の整備、流行状況に関する情報収集の強化、医療従事者や施設職員および見舞者などへの感染予防の徹底、発症時の医療機関との緊密な連携などで総合的に対応することが必要であると思われる。
 

参考文献
  1. 藤田次郎, 日本臨床内科医会会誌 29: 530-540, 2014
  2. 砂川智子, 他, 日本化学療法学会雑誌 62 Suppl: 304, 2014
  3. 中村雅子, 他, 感染症学雑誌 81 Suppl:  223, 2007
  4. 伊波義一, 他, 感染症学雑誌 86 Suppl: 267, 2012
  5. CDC, MMWR 54(PR-8): 1-41, 2005
  6. Ak Ö, et al., J Infect Chemother 18: 961-964, 2012
  7. 山之上弘樹, 他, Clinic Magazine 42: 15-19, 2015


くばがわメディカルクリニック 久手堅憲史
琉球大学医学部附属病院長 藤田次郎

 

 

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