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おたふくかぜワクチン接種後の副反応報告について

(IASR Vol. 37 p.203-204: 2016年10月号)

わが国の予防接種後副反応報告制度について

安全な予防接種施策の実現のためには, 予防接種後の副反応に関する情報収集・解析が必要である。米国では, 接種後に起こった予期せぬ事態に対し, 臨床的に重要と考えられた時に, Vaccine Adverse Event Re-porting System: VAERSに報告することが求められている。報告するにあたっては, 必ずしもワクチンとの因果関係が証明されている必要はないため, VAERSは, いわゆる 「有害事象」 ベースのサーベイランスシステムである。また, 報告者は医療関係者である必要はなく, 保護者であっても報告することができる。

日本では, 予防接種後の副反応(以下, 有害事象を含む)の把握のために, 次に挙げる様々な報告制度がある。「医療機関からの副反応報告(医療機関報告)」, 「製造販売業者からの副作用報告(企業報告)」, 「被接種者(保護者)からの副反応報告」, さらに定期予防接種(定期接種)のみを対象として実施されている「予防接種後健康状況調査」である。このうち「予防接種後健康状況調査」は, 比較的軽い症状も含めて, 接種後一定期間の健康状況を被接種者(保護者)を対象に実施するものである。本稿ではこのうち, 「医療機関からの副反応報告(医療機関報告)」, 「製造販売業者からの副反応報告(企業報告)」について報告する。

医療機関報告については, 2013(平成25)年3月に予防接種法の一部が改正され, 平成25年4月から, すべての医師に報告が義務づけられた。定期接種対象疾病ごとに, 報告するべき症状と接種から発症までの期間があらかじめ定められており, それらの基準を満たした場合, 医師は予防接種との因果関係に関わらず報告する「有害事象」ベースのサーベイランスシステムである。また, 定められた症状・期間以外であっても入院した場合や死亡または永続的な機能不全に陥るまたは陥るおそれがある場合であって, それが予防接種を受けたことによるものと疑われる症状の場合も同じ様式を用いての届け出が求められている(「副反応」ベースのサーベイランスシステム)。報告先は2014(平成26)年11月24日までは厚生労働省であったが, 平成26年11月25日から(独)医薬品医療機器総合機構(PMDA)に変更となった。医療機関報告は, 医薬品, 医療機器等の品質, 有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器法)(旧薬事法)上の副作用報告を兼ねることとなり, 副反応報告の手続きの簡略化がなされた。

一方, 企業報告の場合, 医薬品医療機器法に基づいて, 「重篤」と判断される副反応報告が, 定期接種対象か任意予防接種(任意接種)対象かに関わらず, 各ワクチンの製造販売業者から届け出られる。

医療機関ならびに企業からの報告がPMDAで集計された後, 厚生労働省, 国立感染症研究所を含めた三者で協力, 連携しながら報告の調査・解析を行い, その結果は厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会/薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の合同会議で定期的に審議され, その内容は厚生労働省のホームページに公表されている 〔2016(平成28)年9月現在URL:http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/indexshingi.html〕。

おたふくかぜワクチン接種後の副反応報告について

平成28年7月5日時点で医療機関, 企業から届け出られた副反応報告数および, おたふくかぜワクチン接種後の副反応報告数を, 報告届出期間ごとにに示した。

医療機関から平成25年4月~平成28年6月までに4,209件の報告があった。このうち, おたふくかぜワクチンに関する報告は89件(おたふくかぜワクチン単独接種43件, 他のワクチンとの同時接種46件)。89件には, 無菌性髄膜炎(ウイルス性髄膜炎, ムンプス性髄膜炎含む)17件, 脳炎・脳症(ウイルス性髄膜脳炎含む)5件が含まれていた(無菌性髄膜炎と重複1例あり)。

企業から平成25年4月~平成28年6月までに2,945件の報告があった。このうち, おたふくかぜワクチンに関する報告は92件(おたふくかぜワクチン単独接種68件, 他のワクチンとの同時接種24件)。92件には, 無菌性髄膜炎(ウイルス性髄膜炎, ムンプス性髄膜炎含む)40件, 脳炎・脳症(ウイルス性髄膜脳炎含む)12件が含まれていた(無菌性髄膜炎と重複4例あり)。

おたふくかぜワクチンの副反応として無菌性髄膜炎がよく知られている。おたふくかぜワクチン接種後の副反応をモニタリングするためには, 全国の医療機関や製造販売業者より届け出られる副反応報告は非常に重要である。しかし, その評価, 解析には課題も多い。

おたふくかぜワクチンは定期接種対象のワクチンではないため, 予防接種法に基づく医療機関報告は必ずしも義務付けられていないが, 定期接種のワクチンと同時接種された場合は, 当該定期接種ワクチンとしての報告義務がある。重篤な副反応については医薬品医療機器法に基づいて医療機関ならびに企業に報告義務がある。企業報告の場合, 同時接種においては, 同一症例であっても, 複数の製造販売業者より, それぞれ副反応報告が提出されることがある。また, 医療機関報告と同一の症例が企業報告としても報告される場合があり, 企業報告にその旨が明記されている場合は, 医療機関報告にまとめられ, 企業報告としては計上されずに集計が行われている。しかし, 医療機関報告と同一症例か否かの確認ができない場合は, 企業報告として集計される。以上のことから, 医療機関報告と企業報告を一概に比較することはできない。

また, おたふくかぜワクチンは定期接種対象ではないため, 国による予防接種実施率調査は行われておらず, 正確な被接種者数(分母情報)の把握が困難である。また, 定期接種対象であっても, 被接種者数が判明するまでには時間がかかるため, 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会/薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会合同会議では, 医療機関への納入数量を接種可能のべ人数(分母情報)として, 副反応報告頻度が計算されている〔平成25年4月1日~平成28年4月30日までの累計接種可能のべ人数(回数)3,318,893〕。国立感染症研究所では, ワクチンの品質管理の観点から, 製造数量をもとにロットごとの副反応報告頻度を計算し解析を行っているが, 過去に行われたワクチン接種後の無菌性髄膜炎の発生調査結果と照らし合わせると明らかに低く, 定期接種対象外ワクチンの副反応報告の頻度を正確に把握できているとは言い難く, 現段階では結果の解釈には注意が必要である。

しかし, 日本全国から報告される副反応報告を継時的に集計し, その推移から異常なシグナルを早期に探知するという意味において非常に有用な制度である。定期接種対象外ワクチンの情報の収集率の向上を検討しつつ, 今後も継続して, ワクチンの安全性の観点からより詳細な解析を積み重ねていく予定である。

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