国立感染症研究所

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日本のノロウイルスシーズンにおける遺伝子型組成の予測

(IASR Vol. 38 p.14-15: 2017年1月号)

ノロウイルスは急性胃腸炎の原因ウイルスである。ウイルス粒子は直径約38nmの正二十面体対称でエンベロープはない。ゲノムは線状非分節型プラス一本鎖RNA, 約7,500塩基長でORF1~ORF3を含む。ORF1はNS1/2とNS3~NS7, ORF2はVP1, ORF3はVP2をコードしている。VP1はSドメインとPドメインからなり抗原性を決定する。VP1で構成されるVLPとPドメインで構成されるP粒子はノロウイルスに対するワクチンの候補と考えられている1)

 ノロウイルスはVP1のアミノ酸配列の類似性によりGI~GVIIの遺伝子群に分類され, GI, GII, GIVがヒトに感染することが知られている。さらに, GIはGI.1~GI.9, GIIはGII.1~GII.22, GIVはGIV.1とGIV.2の遺伝子型に分類され, 毎シーズン複数の遺伝子型が組成を変化させながら同時に流行している2)。したがって, ワクチンを開発するにあたっては, 次シーズンに流行する遺伝子型を予測する必要があると考えられる3)

インフルエンザウイルスの研究において, あるシーズンに流行したウイルス株の頻度が次シーズンにどのように変化するのかをその株の適応度を用いて予測する, いわゆる適応度モデルが提唱された4)。ここで適応度は, そのシーズンまでに流行した株による交差免疫の影響などを考慮して定義される。

この適応度モデルをノロウイルスに適用するにあたり, つぎのモデル1~モデル5を考える。モデル1では対象とする株と同じ遺伝子型の株による交差免疫のみを考慮する。モデル2ではモデル1に加えて交差免疫は毎年20%ずつ減弱すると仮定する。モデル3ではモデル1に加えて交差免疫はVP1のアミノ酸配列が1座位異なるごとに一定の割合で減弱すると仮定する。モデル4ではモデル2とモデル3を組み合わせる。モデル5ではモデル4に加えてすべての遺伝子型の株による交差免疫を考慮する。

モデル1~モデル5の有効性を検証するために, 2008/09シーズン~2014/15シーズンの遺伝子型頻度をそれぞれの前シーズンまでの実測値を用いて予測したところ, 特にモデル3では常に50%以上の割合で前シーズンからの遺伝子型頻度の増減を正しく予測できていた()。

以上の結果より, ノロウイルスシーズンにおける遺伝子型頻度の増減はある程度正確に予測できることが明らかとなった。ちなみに2015/16シーズンにはGII.3とGII.4が減少してGII.17が増加すると予測された。ここで紹介したノロウイルス遺伝子型頻度予測システムはNOROCASTと命名して, 予測結果をhttp://www.nsc.nagoya-cu.ac.jp/~yossuzuk/norocast.htmlから公開している5)

謝辞:共同研究者である国立感染症研究所のDoan Hai Yen先生, 木村博一先生, 片山和彦先生, 愛媛県立衛生環境研究所の四宮博人先生, 山口県環境保健センターの調 恒明先生に感謝申し上げます。

 

参考文献
  1. Kocher J, Yuan L, Future Virol 10: 899-913, 2015
  2. Thongprachum A, et al., J Med Virol 88: 551-570, 2016
  3. Lopman B, Global burden of norovirus and prospects for vaccine development. Centers for Disease Control and Prevention, 2015
  4. Luksza M, Lassig M, Nature 507: 57-61, 2014
  5. Suzuki Y, et al., Microbiol Immunol 60: 418-426, 2016

名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科 鈴木善幸

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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