国立感染症研究所

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冷凍メンチカツを原因とする広域食中毒事例について

(IASR Vol. 38 p.91-92: 2017年5月号)

2016(平成28)年10月に神奈川県内で, 医師から腸管出血性大腸菌O157(VT2)(以下O157)による感染症の届出が多数出され, 調査の結果, 患者の共通食が静岡県内の施設で製造された冷凍メンチカツであったこと, 患者や冷凍メンチカツから検出されたO157が同一であったことから, 当該冷凍メンチカツを原因食品とする食中毒と断定された事例について概要を報告する。

 調査結果として, 患者居住地が報告された都道府県は, 1都5県(神奈川県, 千葉県, 秋田県, 広島県, 兵庫県, 東京都)の一般家庭(1事例のみ飲食店)であり, 患者数は67人()であった。疫学調査および残品に関する細菌学的検査により(本号5ぺージ参照), 原因食品は家庭等で調理された冷凍メンチカツ(そうざい半製品)と断定されている。なお, そうざい半製品とは, ミンチ肉等を加熱することなくパン粉を付け冷凍した製品であり, 家庭等で加熱し喫食する目的で供された製品のことを指す。

発生原因に関する調査結果として, まず, 製品の汚染については, 以下の可能性が推定された。
 (1)O157に汚染された牛肉や牛脂等が原材料に使用された。
 (2)原材料に付着していたO157が消毒不足等により製造室内に残存し, 他製品を汚染した。

次に, 調理後のO157の残存については, 以下の所見が得られた。
 (1)当県での調理の再現試験により, 特にIメンチカツは揚がり難いことが確認された。
 (2)同試験により, メンチカツの揚がり加減を目視で確認することは難しいことが確認された。
 (3)揚げ方の説明が不十分なため, 消費者が独自の調理方法により調理した。
 (4)消費者に冷凍食品と誤認を与える表示のため, 十分な加熱が実施されなかった。

本県において採られた対応は以下の通りである。

まず, 情報探知後, 直ちに当該製品の自主回収を指示するとともに, 以下の内容のとおり製造者および販売者に対して改善指導を行った。

(1)製造者
  ・家庭用メンチカツ製造時に使用する牛肉は, トリミング肉ではなく, 単一肉塊を使用する。
  ・家庭用メンチカツ製造時に使用する牛脂(ケンネン脂)は, 殺菌(加熱を含む)工程を追加する。
  ・製造器具機材の殺菌は, 使用する薬剤の効果や特性を考慮し確実に行う。
  ・記録や作業が手順書通り行われているかの検証を定期的に行う。
  ・調理方法について, 消費者が製品の特性である「生肉がそのまま含まれており中心部まで加熱する旨」の記載をするなどより分かりやすく明確に表示する。
  ・調理者が十分に加熱できるよう目安となる項目を表示する(温度および時間だけでなく, 揚げ油の深さや浮き上がり等)。
  ・家庭用メンチカツを製造する場合は, 消費者がフライパンを使用するなどたっぷりの揚げ油を使用しないことも想定し, 加熱のしやすい形状(重量, 厚み)を検討する。

(2)販売者
  ・加熱調理方法の表示が妥当であるか定期的に検証する。
  ・加熱調理済の冷凍食品と誤認されるような外装は避ける。
  ・家庭用メンチカツを企画する場合は, より加熱のしやすい形状を検討する。
  ・調理者が十分に加熱できるよう目安となる項目を表示する(温度および時間だけでなく, 揚げ油の深さや浮き上がり等)。

また, 県民全般に対しては, 静岡県庁ホームページの情報(https://www.pref.shizuoka.jp/kousei/ko-510/kannsi/menntikatu28.html)などを通して, メンチカツ等生肉の状態で販売される食品についての注意喚起を行った。この中では, 危機管理情報として, メンチカツなどの挽肉製品(生肉を含む食品)は中心部までしっかり加熱することの重要性について特に強調した。ほかに, 一般的な食中毒予防に関する情報として, 生肉等の十分な加熱, 幼児や高齢者が食する場合の特に入念な加熱の必要性, 生肉等を加熱する場合の道具の使い分け, 十分な手洗い, 食材の低温での保管の重要性について言及した。

 

静岡県健康福祉部生活衛生局衛生課食品監視班 班長 久川祐稔

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