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厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)データからみたカルバペネム耐性腸内細菌科細菌

(IASR Vol. 40 p21-22: 2019年2月号)

厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)の検査部門では, 参加医療機関で実施されたすべての細菌検査データを継続的に収集・集計し, 日本国内の主要な薬剤耐性菌の分離状況を明らかにしている。カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)については, 2014年に試験的な集計が開始され, 2015年から正式なJANISの集計対象となっている。感染症法に基づく感染症発生動向調査(NESID)とは異なり, 保菌と発症を区別せず, 医療機関で分離されて基準を満たす菌のデータをすべて集計対象として, ヒト由来検体から分離される菌全体を対象として耐性率を算出している点が特徴である。耐性の判定基準は感染症法に基づく届出の際の基準と同じものを採用し, また集計に際しては30日以内に同一患者から同菌種が検出された場合は削除するなどの重複処理を行っている。以下, JANIS検査部門の公開情報(https://janis.mhlw.go.jp/report)からみたCREの状況について述べる。

2014~2017年までの4年間に, JANIS参加医療機関の中でCREの分離された患者数の推移を, 図1に棒グラフで示した。2015年に9,254人だったCRE分離患者数は, 2016年に7,827人, 2017年には7,572人に減少した。JANIS参加医療機関は増加し続けている(https://janis.mhlw.go.jp/hospitallist/index.html)ので, CREの分離された患者数が減少を続けているのは注目に値する。CREが分離された患者数を検体提出患者の総数で割った「分離率」を算出したところ, 図1折線で示すように減少傾向が続いていることが明らかになった。この間, CREの分離された医療機関の割合も, 81.0%(2014年), 70.5%(2015年), 63.0%(2016年), 56.4%(2017年)と, 減少を続けている。

なお, CRE分離率は例えば2016年と2017年では0.29%と0.27%であるが, 腸内細菌科細菌の分離された患者の総数を分母とした場合, 分離率は0.90%(2016年), 0.83%(2017年)となる。このように, 分母によって分離率の値と解釈は変化するので注意が必要である。

2017年にCREの分離された患者について, 菌種別の内訳を集計した結果を図2に示した。Klebsiella aerogenesが35.2%, Enterobacter cloacaeが30.5%で全体の6割以上を占め, 続いてKlebsiella pneumoniaeが8.9%, Escherichia coliが7.0%, Serratia marcescensが4.3%であった。ただし前述の通り, JANIS検査部門のデータでは保菌と発症は区別されておらず, またカルバペネマーゼ遺伝子保有の有無についての情報はない。

JANISでは, 集計対象医療機関すべてのデータを集計して作成した公開情報に加え, 都道府県別の公開情報(https://janis.mhlw.go.jp/report/kensa_prefectures.html)も作成している。これによって, 都道府県ごとにCREの分離患者数および分離率(分母を検体提出患者の総数としたもの)を知ることができる。2016年からは, 図3に示すように, 分離率の全国での分布と, その中での各都道府県の位置をみてとれる箱ひげ図も作成し, 上記の都道府県別の公開情報のページで公開している(なお, この箱ひげ図は, CREだけでなく, JANISで分離患者数を集計している11種類の「特定の耐性菌」すべてについて作成しており, 図3にはそのうちCREだけを示した)。この箱ひげ図の中には, 全国中央値, 75%点, 90%点, 最小値, 最大値が記載されており, 図3に示す2017年の場合, 全国中央値は0.25%, 75%点は0.33%, 90%点は0.42%, 最小値は0.08%, 最大値は0.53%である。各都道府県の分離率の分布は正規分布に従っている(Shapiro-Wilkの適合度検定でp=0.33)が, 90%点を超える高い分離率を示す都道府県も4つ存在する。しかし, 分離率が高い都道府県に地域的な偏りはない。

これらの公開情報は, JANISが各参加医療機関にフィードバックしている還元情報とあわせて, CREの発生動向を監視するための最も基本的な情報としてホームページ上で提供している。様々な場面で活用して頂ければ幸甚である。

 

国立感染症研究所薬剤耐性研究センター
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