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2018年のA型肝炎アウトブレイクにおける感染経路の特徴―大阪市

(IASR Vol. 40 p153-154:2019年9月号)

A型肝炎は, A型肝炎ウイルス(HAV)感染によって引き起こされる急性肝炎であり, 感染症法第12条第1項の規定により診断後, 直ちに届出が必要な4類感染症である。大阪市では, 2010年の健感発第0426第2号・食安監発0426第4号「A型肝炎発生届受理時の検体の確保等について」に基づいて検体確保に努め, 検査によって判明したHAV塩基配列を国立感染症研究所へ送付し, 分子疫学的手法による遺伝子解析等を依頼している。

HAV sub-genotype IAに分類されるウイルスの中でもRIVM-HAV16-090近縁株が主な流行株となった2018年の全国的なA型肝炎アウトブレイク1)に際して, 大阪市では40症例のA型肝炎の発生届があり, そのうち34症例において臨床検体の確保が可能であった。「A型肝炎ウイルス検出マニュアル」2)記載の方法に準じたRT-PCRならびにダイレクトシークエンス解析の結果, すべての症例よりHAV sub-genotype IAが検出され, RIVM-HAV16-090近縁株は30症例(88%)を占めた。に示す通り, 患者の性別は男性が94%(32症例)であり, そのうち性的接触による感染が推定された割合は78%(25症例)と, 2018年第42週までの全国統計56%3)と比べて高かった。対照的に, RIVM-HAV16-090非近縁株が検出された4症例(12%)の男女比は50:50であり, 推定感染経路も経口感染が75%(3症例)と, 症例数が少ないものの2015~2017年の全国統計における割合(男女比61:39, 経口感染74%)に近かった3)

大阪市でRIVM-HAV16-090近縁株が検出された30症例はすべて男性であった。前出の性的接触感染25症例はすべてこの中に含まれ, そのうち88%(22症例)には同性間の性的接触があった。デリケートな問題が含まれる場合には感染経路の聞き取り調査に非協力的なケースもあるが, 大阪市においてはほとんどのケースで病院からの発生届に感染経路が明記されていた。一方で, 発生届において感染経路が不明な場合に, 疫学調査における聞き取りで同性間の性的接触が判明したケースはなかった。これについては, エイズ治療拠点病院からの届出が22症例を占めるなど, 患者が受診した医療機関の専門性が聞き取りによる感染経路の解明に大きく寄与したものと考えられる。実際には, 大阪市内のあるエイズ治療拠点病院で2018年3~7月にかけてA型肝炎と診断された13症例中12症例はMSM(men who have sex with men)でHIV(ヒト免疫不全ウイルス)にも感染していたと報告されている4)。このことから, 2018年のMSM間におけるA型肝炎の流行時には他の性感染症に罹患するリスクも高かったと考えられる。HAVは潜伏期間が2~6週間と長く, その感染経路も多岐に渡るため遡り調査に難儀することも多い。そのため, A型肝炎発生時は感染源の特定に要する労力は大きいが, 2018年のA型肝炎アウトブレイクに際して感染経路が明確なケースが多かったことは, 公衆衛生上の取り組みを迅速に検討する上で大きな助けとなった。

2018年以前の大阪市におけるRIVM-HAV16-090近縁株の検出例を遡って調べると, 2016年9月下旬に発症した43歳男性と, 2017年10月中旬に発症した44歳男性の2症例があった。前者はエイズ治療拠点病院からの発生届であり, 推定感染経路は同性間性的接触であったが, 渡航歴などはなかった。当時はこの株の塩基配列に対してBLAST検索で完全に一致する株はなかった。後者の発生届はエイズ治療拠点病院からではなく, 感染経路は不明であった。以上より, 日本国内のMSM間におけるRIVM-HAV16-090近縁株の伝播は, ヨーロッパにおいてEuroPride(LGBTコミュニティの平等権を祝うための国際的なイベント)に関連したA型肝炎アウトブレイクが発生し, RIVM-HAV16-090株が検出された2016年5)のほぼ同時期にすでに生じていたものと考えられる。

最後に, A型肝炎症例の臨床検体の確保等にご協力いただいた医療機関の先生方ならびに関係保健福祉センター各位に深謝いたします。

 

参考文献
  1. 2018年A型肝炎流行状況
    https://www.niid.go.jp/niid/images/vir2/HAV/HAV181130.pdf
  2. A型肝炎ウイルス検出マニュアル(第2版), 平成30年12月
  3. Tanaka S, et al., Hepatol Res 49: 705-710, 2019
  4. 2012年第1週から2018年第42週までの感染症発生動向調査におけるA型肝炎の報告(国立感染症研究所 感染症疫学センター), 2018年11月20日掲載
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/hepatitis-a-m/hepatitis-a-idwrs/8423-hepa-181120.html
  5. Freidl G, et al., Euro Surveill 22(8), 2017
 
 
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