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東北および北陸地方を中心に発生したA型肝炎事例について

(IASR Vol. 40 p155-156:2019年9月号)

1.概要

国立感染症研究所(感染研)および国立医薬品食品衛生研究所より, A型肝炎患者の届出が, 例年100~300件であるものの2019年第1~3週において46例と増加しており, 一部の患者についてカキが原因と疑われる食中毒事案として調査が行われているとの連絡を受けた。さらに1月21日時点において, 感染研に連絡のあった患者の塩基配列情報(4自治体から送付された7株)において, JP-HAV19-00758クラスターに分類され, これは2017年流行株(Accession No. LC415421), RIVM-HAV16-090株(2018年流行株, 参照Accession No. KX151459, MF805887)とは系統樹上, 異なるクラスターであるとの連絡を受けたことから, 各都道府県等に対して, A型肝炎の発生届を受理した場合には塩基配列情報を確認し, 食中毒調査を実施するよう依頼した。

当室では, 各都道府県等における食中毒調査結果について, 共通事項がないかとりまとめを行ったが, 患者間に共通する要因は見当たらなかった。食中毒と判断された事案はなかったものの, 広域的な食中毒疑い事案の一例として報告する。

2.対応

(1)1月21日, A型肝炎ウイルスによる食中毒の被害防止の観点から, 各都道府県等に対して下記の通り対応を依頼した。

1. A型肝炎有症者の情報については, 感染症部局と連携を図り情報共有を行うこと。

2. A型肝炎の発生届を受理した場合は, ウイルス株の分子疫学的手法による解析のため, 可能であれば感染研への塩基配列情報等の送付をすること。

3. 塩基配列がJP-HAV19-00758クラスターに分類されるA型肝炎患者においては, 食中毒調査を実施し, 喫食状況等の疫学情報を, 食中毒被害情報管理室まで報告すること。

(2)2月6日, 「A型肝炎発生届受理時の検体の確保等について」(薬生食監発0206第2号)を発出し, 改めてA型肝炎の患者発生届を受理した場合はウイルス株の分子疫学的手法による解析が実施できるよう, 患者の糞便検体の確保に努め, ウイルス株の分子疫学的手法による解析ならびにライブラリーとの照合を行うため感染研への塩基配列情報等の送付を要請した。

3.調査結果等:および

調査の結果, 20都道府県等から44人の患者が報告され, 発症期間は12月上旬~1月下旬であった。そのうち32人の糞便検体から塩基配列JP-HAV19-00758に分類されるA型肝炎ウイルス(中ではHAVと略記)が検出された。各都道府県等においてはA型肝炎症例調査質問票等を用いて潜伏期間内(発症14~50日間)における喫食品や生カキの喫食の有無等を調査したが, 共通喫食歴はなく, 生カキを喫食した患者は8人であった。患者間に共通する要因は認められず, 食中毒として判断された事案はなかった。

4.まとめ

A型肝炎は発症するまでの潜伏期が長いことなどから十分な疫学情報を得ることは難しく, 今回の事案については患者間の疫学的な関連性や感染源が特定されず, 食中毒事例と判断されたものはなかった。本事案を踏まえると, 潜伏期間の長いA型肝炎を食中毒と判断することは容易ではないことから, 感染症部局と連携し情報共有することで感染源の究明や, 調査・研究等を通じて患者と二枚貝のウイルス遺伝子の比較など, その関連性について明確にすることも一つの方法と考えられる。

また今回は複数の都道府県等で特定の遺伝子配列のA型肝炎ウイルスが検出された広域的な食中毒疑い事案であった。広域的な食中毒については, 被害拡大を防止するため, 国, 都道府県等での情報共有等に基づき, 同一の感染源による広域発生の早期探知を図ることが重要である。当室では引き続き, 広域的な食中毒疑いの事案を探知した際には, 各都道府県等, 国立感染症研究所・国立医薬品食品衛生研究所等関係機関との情報共有, 必要に応じて, 2019年4月に設置した広域連携協議会を開催し, 国, 都道府県等における早期の調査方針の共有や情報交換を行い拡大の防止に努めて参りたい。

 

 

厚生労働省 医薬・生活衛生局食品監視安全課
 食中毒被害情報管理室

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