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A型肝炎ワクチン

(IASR Vol. 40 p157:2019年9月号)

A型肝炎ワクチンは, 患者由来のA型肝炎ウイルス(HAV)を培養細胞に馴化・増殖させ, 中和抗原部位の立体構造を損なわないようにウイルス粒子をホルマリンで不活化した「不活化ワクチン」が一般的である1)。日本では1994年に乾燥組織培養不活化A型肝炎ワクチンが承認された。これも培養細胞で増殖させたHAVをホルマリン処理した不活化ワクチンであるが, ユニークな特徴は, アジュバントも保存剤も添加されていない凍結乾燥製剤であることである2)。適用の年齢制限はなく, 世界保健機関(WHO)の勧告に従って1歳以上からの接種が薦められている。ワクチン接種後にみられる主な副反応は, 接種部位の発赤, 疼痛, 発熱等で, 数日後には消失する。全般的にA型肝炎ワクチンは安全なワクチンである3)

日本ではA型肝炎ワクチンは任意接種である。ワクチン接種を勧奨されるのは以下の高リスク群である3)。

●A型肝炎非流行地域(日本などの高所得国)から, 中~高頻度流行地域(アジア, アフリカ, 中南米等)への渡航者

●職業上, A型肝炎感染リスクが高くなると考えられる者。例:デイケアセンター・介護施設職員, 医療従事者, 下水処理作業従事者, 人以外の霊長類と接する者, 等。

●患者家族等の濃厚接触者。

●血友病患者のように生涯に渡って血液製剤の投与を受ける者。

●免疫不全や慢性肝疾患, 糖尿病など, 基礎疾患によってA型肝炎が重症化するリスクがある者。

●男性間性交渉者(Men who have sex with men, MSM), 注射薬物使用者(PWID)など。

●HAVに感染した場合に食品を通して飲食客へ感染を拡大するおそれのある飲食店従事者や, 重症化リスクが高い高齢者等。

国内承認ワクチン「乾燥組織培養不活化A型肝炎ワクチン:エイムゲン」は, 凍結乾燥製剤であるため, 添付の溶剤(日本薬局方注射用蒸留水)0.65mLで溶解し, 0.5μg/0.5mLの不活化A型肝炎ウイルス抗原を含む注射用液とする。0.5mLずつを2~4週間隔で2回, 筋肉内または皮下に接種し, さらに初回接種後24週を経過した後に同用量を追加接種する。海外渡航直前等の免疫賦与を急ぐ場合には, 2週間隔の2回接種でも感染防御抗体を得ることができるが, 予防効果を長期間維持するためには3回目の接種が必要である2)

海外製品はアジュバントが添加された液状製剤であったり混合ワクチンであったり, 剤形もバイアルの他にシリンジ剤等が存在する。接種方法も筋肉内接種のみが指定されているなど, 製剤によって異なるので, 接種医は添付文書を必ず確認する。WHOでは不活化A型肝炎ワクチンの互換性を認めている1)

一般的に, HAV抗体価が10mIU/mL以上であれば感染防御に有効と考えられている。エイムゲンの臨床試験結果によれば, 2回接種で抗体陽転率100%に達する。さらに規定の接種回数(3回)で感染防御効果を長期間維持することができる2)。一般的に, 血液透析患者や免疫不全(臓器移植, HIV感染等)がある場合, ワクチン接種後の免疫応答が健常人に比べて低いことが知られている。また, 加齢によっても免疫応答は悪くなる。ワクチン接種後に抗体価を測定することは必須ではないが, 抗体獲得に不安がある場合や, 確実な免疫賦与が必要な場合は, 最終接種の1カ月後に抗体価を確認することが望ましい3)

ワクチンが開発されるまでA型肝炎の予防には免疫グロブリンが推奨されていた。免疫グロブリンの利点は即効性であり, HAV曝露後でも, 2週以内に投与すれば発病予防効果がある。免疫力が弱い高齢者, 免疫機能不全患者にも有効である。しかしながら, 受動免疫であるために予防効果の持続期間が短いことが欠点である。

流行時におけるA型肝炎ワクチンの流行抑制効果は, 流行地域の特性とワクチン接種プログラムの展開速度に影響される。流行が, 限られたコミュニティ(例:小学校, MSMコミュニティ等)で発生し, 早期のワクチン介入によって高い接種率が達成できる状況であれば, ワクチン1回接種でも流行抑制には効果的である。また, ワクチン接種だけでなく, 衛生教育と環境整備も重要である3)

 

参考文献
  1. World Health Organization, Department of Communicable Disease Surveillance and Response: Hepatitis A. 2000.
  2. 医薬品インタビューフォーム「エイムゲン」2014年9月(改訂第9版)
  3. World Health Organization. WHO position paper on hepatitis A vaccines Wkly Epidemiol Rec 87: 261-276, 2012
 
 
国立感染症研究所ウイルス第二部
 清原知子 鈴木亮介 村松正道

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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