国立感染症研究所

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抗インフルエンザ薬耐性株の検出と性状

(IASR Vol. 40 p185-186:2019年11月号)

季節性インフルエンザに対する抗インフルエンザ薬としては, イオンチャネル活性をもつウイルス蛋白質(M2)の阻害剤アマンタジン(商品名シンメトレル), 4種類のノイラミニダーゼ(NA)阻害剤オセルタミビル(商品名タミフル), ザナミビル(商品名リレンザ), ペラミビル(商品名ラピアクタ)およびラニナミビル(商品名イナビル), そしてキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤バロキサビル(商品名ゾフルーザ)が承認されている。M2阻害剤はB型ウイルスに対して無効であり, さらに, 現在国内外で流行しているA型ウイルスはM2阻害剤に対して耐性変異をもつ。したがって, インフルエンザの治療には, 主に4種類のNA阻害剤およびバロキサビルが使用されている。薬剤耐性株の検出状況を継続的に監視し, 国や地方自治体, 医療機関ならびに世界保健機関(WHO)に対して迅速に情報提供することは公衆衛生上非常に重要である。そこで国立感染症研究所(感染研)では全国の地方衛生研究所(地衛研)と共同で, 薬剤耐性株サーベイランスを実施している。

NA阻害剤については, 地衛研においてA(H1N1)pdm09ウイルスのNA遺伝子解析によるオセルタミビル・ペラミビル耐性変異H275Yの検出を行い, 感染研において薬剤に対する感受性試験および既知の耐性変異の検出を実施した。A(H3N2)ウイルスおよびB型ウイルスについては, 地衛研から感染研に分与された分離株について薬剤感受性試験および既知の耐性変異の検出を行った。バロキサビルについては, 地衛研においてキャップ依存性エンドヌクレアーゼ活性をもつウイルス蛋白質(PA)の遺伝子解析によるバロキサビル耐性変異I38X(Xは任意のアミノ酸)の検出を行い, 感染研において薬剤に対する感受性試験および既知の耐性変異の検出を実施した。アマンタジンについては, 感染研において既知の耐性変異の検出を実施した。

1)A(H1N1)pdm09ウイルス

NA阻害剤については, 国内で分離された2,163株について解析を行った。その結果, NAにH275Y耐性変異をもつオセルタミビル・ペラミビル耐性株が21株(1.0%)検出された。耐性株の地域への感染拡大は認められなかったが, 4例は薬剤未投与であり, 耐性株のヒトからヒトへの感染伝播が起こったと考えられる。海外(韓国, 台湾, ネパール, ミャンマー, モンゴル, ラオス)で分離された208株に関しては, 耐性株は検出されなかった。

バロキサビルについては, 国内で分離された331株について解析を行った結果, PAにI38X耐性変異をもつバロキサビル耐性変異株が6株(1.8%)検出された。耐性株はいずれもバロキサビル投与例から検出された。

アマンタジンについては, 国内で分離された193株および海外(韓国, 台湾, ミャンマー, モンゴル, ラオス)で分離された71株について解析を行い, すべてアマンタジン耐性株であった。

2)A(H3N2)ウイルス

NA阻害剤については, 国内で分離された331株および海外(韓国, 台湾, ネパール, ミャンマー, モンゴル)で分離された75株について解析を行った結果, 耐性株は検出されなかった。

バロキサビルについては, 国内で分離された356株について解析を行った結果, PAにI38X耐性変異をもつバロキサビル耐性変異株が34株(9.6%)検出された。耐性変異株の地域への感染拡大は認められなかったが, 5例はバロキサビル未投与であり, 耐性変異株のヒトからヒトへの感染伝播が起こったと考えられる。

アマンタジンについては, 国内で分離された155株および海外(韓国, 台湾, ミャンマー, モンゴル, ラオス)で分離された72株について解析を行い, すべてアマンタジン耐性株であった。

3)B型ウイルス

NA阻害剤については, 国内で分離された161株について解析を行った。その結果, NAにH273Y耐性変異をもつペラミビル耐性株が1株(0.6%)検出された。耐性株の地域への感染拡大は認められなかったが, 薬剤未投与例であり, 耐性株のヒトからヒトへの感染伝播が起こったと考えられる。海外(韓国, 台湾, ネパール, ミャンマー, ラオス)で分離された34株に関しては, 耐性株は検出されなかった。

バロキサビルについては, 国内で分離された42株について解析を行った結果, 既知の耐性変異をもつバロキサビル耐性変異株は検出されなかった。

本解析は, 「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の施行に伴う感染症発生動向調査事業に基づくインフルエンザサーベイランスとして, 医療機関, 保健所, 地方衛生研究所との共同で実施された。本稿に掲載した成績は全解析成績の中から抜粋したものであり, その他の成績はNESIDの病原体検出情報システムにより毎週地衛研に還元されている。また, 本稿は上記事業の遂行に当たり, 地方衛生研究所全国協議会と感染研との合意事項に基づく情報還元である。

 
 
国立感染症研究所
インフルエンザウイルス研究センター
第一室・WHOインフルエンザ協力センター
 高下恵美 小川理恵 森田博子 永田志保 藤崎誠一郎 三浦秀佳 
 白倉雅之 岸田典子 中村一哉 桑原朋子 佐藤 彩 秋元未来 
 菅原裕美 渡邉真治 長谷川秀樹 小田切孝人
インフルエンザ株サーベイランスグループ

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