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2019/20シーズンのインフルエンザワクチン株選定の過程

(IASR Vol. 40 p196-197:2019年11月号)

1. 2019/20シーズンの株選定プロセス

2018/19シーズン以降のインフルエンザワクチンの製造株(製造株)の選定に当たっては, 「厚生科学審議会 予防接種・ワクチン分科会 研究開発および生産・流通部会」の下に設置された「季節性インフルエンザワクチンの製造株について検討する小委員会」(小委員会)において, 以下の基本的な考え方に従い, 総合的に評価することとされている。

基本的な考え方

製造株の選定に当たっては, 原則として世界保健機関(WHO)が推奨する株の中から, 期待される有効性およびワクチンの供給可能量を踏まえた上で, 双方を考慮した有益性(4種類の製造株に係る有益性の総和) が最大となるように検討を行う。

2019/20シーズンの株選定においても, 小委員会による総合的な評価が行われた。

2. 第2回および第3回季節性インフルエンザワクチンの製造株について検討する小委員会の評価について

2019/20シーズンの北半球向けのインフルエンザワクチンWHO推奨株は, 以下の通りである。

A/Brisbane/02/2018(H1N1)pdm09-like virus

A/Kansas/14/2017(H3N2)-like virus

B/Phuket/3073/2013-like virus(B/Yamagata/16/ 88 lineage)

B/Colorado/06/2017-like virus(B/Victoria/2/87 lineage)

A(H1N1) 亜型について

2018/19シーズンのA(H1N1)pdm09ウイルスによる流行は, 国内外とも規模が大きく, 多くの国で流行の主流であった。流行ウイルスの大半は, 183番目のアミノ酸がプロリンに置換された183Pを共通して持っており, 183P置換をもたないワクチン株に対するヒト血清抗体との反応性が低下する傾向がみられた。このことから, WHOの推奨をもとに, 183P置換を持つA/Brisbane/02/2018(IVR-190)が製造候補株とされた。

国内のワクチン製造所により評価されたA/Brisbane /02/2018(IVR-190)の製造効率および生産性評価の結果は良好であった。

以上を踏まえ, 第2回小委員会での審議の結果, 期待される有効性およびワクチンの供給可能量の観点から, A/Brisbane/02/2018(IVR-190)を製造株として決定した。

A(H3N2)亜型について

A(H3N2)ウイルスについて, 国内では, 2019年第2週以降, 検出数がA(H1N1)pdm09ウイルスを上回り, 最終的な総検出数も最も多くなった。流行株のグループのうち, 国内では, 3C.2a1bに属する流行株が最も検出され, 3C.3aに属する流行株は検出されていない。一方, 米国およびヨーロッパの一部の国においては, 2018年11月以降, 3C.3aに属する流行株の検出が急増した。

フェレット感染血清やヒト血清抗体を用いた解析により, 3C.2a1bに属する流行株と3C.3aに属する流行株は抗原性が異なることが示されている。

WHOは例年2月下旬に推奨株を公表するが, 3C.2a1bと3C.3aの流行パターンをさらに見極める必要があったこと, および3C.3aに属する株がワクチン製造に使えるか未確認であったことから, 2月の推奨の公表は見送られた。結論として, 3月下旬に, 3C.3aに属するA/Kansas/14/2017(H3N2)-like virusが推奨された。

国内においても, 第2回小委員会では結論が見送られ, 第3回小委員会で持ち回り審議が行われた。WHOの推奨を踏まえ, 2019/20シーズンに3C.3aに属するウイルスの流行の可能性があること, これまでの流行株と抗原性が異なり, かつ国内でこれまで全く検出されていない3C.3aに属するウイルスに対する日本人の免疫は低いと考えられることから, 3C.3aに属するA/Kansas/14/2017(X-327)が製造候補株とされた。

国内のワクチン製造所により評価されたA/Kansas /14/2017(X-327)の製造効率および生産性評価の結果は良好であった。

以上を踏まえ, 第3回小委員会での審議の結果, 期待される有効性およびワクチンの供給可能量の観点から, A/Kansas/14/2017(X-327)を製造株として決定した。

B型(山形系統)について

2018/19シーズンの山形系統株の流行は, 国内外ともに非常に小さく, 国内外ともに検出された流行株は, 2018/19シーズンの国内ワクチン製造株であったB/Phuket/3073/2013と同じグループ3のウイルスだった。

フェレット感染血清を用いた解析から, 流行株の抗原性は2018/19シーズンからほとんど変化がなく, B/Phuket/3073/2013を含むワクチン接種者の血清と流行株の反応性も良好であった。

以上から, 第2回小委員会での審議の結果, 期待される有効性およびワクチンの供給可能量の観点から, 2018/19シーズンと同一のB/Phuket/3073/2013を製造株として決定した。

B型(Victoria系統)について

2018/19シーズンのVictoria系統株の流行は, 国内外ともに非常に小さく, 情報は限定的であった。本系統では, 2016年頃から出現した, 赤血球凝集素蛋白に2アミノ酸欠損(2 del)がある変異株が世界的に主流となっている。また, 欧米, アフリカ, アジアでは, 2 del変異株と抗原性が大きく異なる3アミノ酸欠損 (3 del) 変異株の流行が徐々に増えている。

2 delをもつWHO推奨株(B/Colorado/06/2017-like virus)で, 2018/19シーズンの国内製造株であるB/Maryland/15/2016(NYMC BX-69A)を含むワクチン接種者の血清は, 2 del変異株および3 del変異株のいずれにも良く反応した。

以上から, 第2回小委員会での審議の結果, 期待される有効性およびワクチンの供給可能量の観点から, 2018 /19シーズンと同一のB/Maryland/15/2016(NYMC BX-69A)を製造株として決定した。

3. 2019/20シーズンのインフルエンザワクチンの供給について

2019/20シーズンは, 流行が例年より早まり, 早期のワクチンの需要が増加した場合に備えて, 接種シーズンの開始時期である10月初旬に, ワクチンメーカーや卸売販売業者に対して, ワクチンの偏在等が生じないように留意した上で, 保有する在庫をできる限り医療機関等に迅速に納入するよう, 協力を依頼した。

インフルエンザワクチンは, 例年, 10月末までに約1,000万本が医療機関に納入されているが, 2019/20シーズンは10月末までに2,037万本の供給量を見込んでいる。また, 2019/20シーズンを通した供給量は2,933万本の見込みで, 2018/19シーズンの使用量である2,630万本や, 2017/18シーズンを除く過去6年間の平均使用量である2,598万本を上回っている。近年の使用量等から, ワクチンを適切に使用すれば, 不足は生じない状況と考えられる。

 

厚生労働省健康局健康課予防接種室

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