大阪府, 横浜市, 足立区, 八王子市および神戸市から報告された同一系列の焼き肉店を利用した腸管出血性大腸菌O157(VT1, VT2)による食中毒事案について
(IASR Vol. 41 p74-75: 2020年5月号)
はじめに
同一系列の焼き肉店を平成31(2019)年2月9~12日にかけて利用し, 下痢, 嘔吐等の症状を呈する者の8名(合計5店舗)の便から, 腸管出血性大腸菌O157(VT1, VT2)が5自治体で検出されていることが判明した。厚生労働省(厚労省)は2月25日付けで, 全国の自治体に対し, 食中毒の被害拡大防止の観点から, 腸管出血性大腸菌による感染症法に基づく届出情報や食品による被害情報の苦情等の相談があった場合は, 同系列店舗の利用状況を調査すること等を通知した。
その結果, 3月末日までに感染が判明した15名の便より分離された菌株のMLVA型がすべて一致した。また, 国立医薬品食品衛生研究所(国衛研)等において, 系列店で保管されていた牛ハラミおよびその関係材料を検査したところ, 腸管出血性大腸菌O157を検出し, 患者便と反復配列多型解析(multilocus variable-number tandem repeat analysis: MLVA)型が一致した。この牛ハラミは, 患者の多くが喫食しており, 当該系列店のみに提供されていた。当該系列店の焼き肉店は2月25日より全店舗の営業を自粛しており, 重篤な患者は認められなかった。
今般, 上記の事案について広域的な食中毒事案として報告する。
事案の概要
平成31(2019)年2月25日, 同一系列の焼き肉店を2月9~12日にかけて利用し, 下痢, 嘔吐等の症状を呈する8名の便から, 腸管出血性大腸菌O157(VT1, VT2)が検出されたことを踏まえ, 全61店舗の営業を自粛するとの社告が掲載された。
厚労省は2月25日付けで, 全国の自治体に対し, 食中毒の被害拡大防止の観点から, 同系列店舗の利用状況を調査すること等を通知した。調査の詳細は以下の通り。
(1)腸管出血性大腸菌による感染症法に基づく届出情報や食品による健康被害の苦情等の相談があった場合は, 同系列店舗の利用状況を調査し, 関連性を確認するとともに, 必要に応じて食中毒調査を実施すること。また, 該当する情報を得た場合には当職まで速やかに連絡すること。
(2)住民等から本事案との関連が疑われる症状の相談があった場合は, 速やかに医療機関の受診を勧奨するなど適切な対応をすること。
(3)腸管出血性大腸菌O157による食中毒が発生した場合は, 関連性を確認する観点から, 平成30(2018)年6月29日付け事務連絡「腸管出血性大腸菌による広域的な感染症・食中毒に関する調査について」に基づき, 患者由来菌株を迅速に収集し, MLVA法によるMLVA型付与のため, MLVA法の検査結果または菌株を国立感染症研究所へ送付すること。
調査の結果, 当該同一系列の焼き肉店の利用による患者が8自治体で17名認められ, そのうち15名の患者便より分離された菌株のMLVA型がすべて一致した。また, 系列店で保管されていた牛ハラミおよび関係材料について, 疫学調査の結果より, 患者の多くが喫食していたことから, 国衛研等において検査を実施したところ, 腸管出血性大腸菌O157を検出し, 患者便とMLVA型が一致した。
この結果を受け, 同一系列の焼き肉店を利用し, 牛ハラミの喫食が認められ, 牛ハラミと患者便のMLVA型が一致等した患者の発生している大阪府, 横浜市, 足立区, 八王子市および神戸市において食中毒と断定された。
厚労省は, 当該食中毒事案についてホームページを活用し, 消費者に対し食中毒事案の公表を行った。
調査結果等
食中毒とされた事案の患者等の情報は表を参照。
同一系列の焼き肉店を利用した患者について, 3月末日までに合計17名の患者便について, MLVA解析の結果, 15名の患者の菌株のMLVA型が牛ハラミから検出された菌株のMLVA型と一致した。
総 括
今回の事案の原因食品については, 同系列の焼き肉店で事案が発生し, 提供メニューは統一されていたものの, 焼肉という喫食形態から, 多くの利用者で同様の喫食状況が認められ, 疫学調査の結果において有意な差を求めることが難しい事案であった。しかしながら, 各店舗で同じ原材料を利用していたことから, 関係自治体で連携し, 患者発生店舗以外でも汚染が疑われた食材の残品の入手ができたことや, 早期に全店舗の営業自粛がなされ, 食中毒の拡大防止措置がとられたことは今後の教訓として活かせるものである。なお, 原材料の遡り調査の結果では牛ハラミの汚染原因等の特定はできず, 原料肉の衛生管理については引き続き課題は残る結果となった。
利用者が自ら焼いた肉を喫食する一般的な焼肉店では, 行政としては今後も消費者への注意喚起や普及啓発等や, 従業員による生肉の十分な加熱の案内, 生肉をつかむトングの使い分けといった衛生的な取り扱いはもちろん, 原料肉における衛生管理等をより一層実施することで, 食中毒の未然防止に努める必要があると考える。
今般の事案のように, 複数の自治体にまたがる事案については, 平成31(2019)年4月に設置された広域連携協議会を活用し, 食中毒事案の早期探知および拡大防止に努め, 事案に応じて生産段階の調査については, 関係者と十分に連携して調査を行うことが原因の究明, 再発の防止につながると考える。