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デング熱ワクチンの現状と展望

(IASR Vol. 41 p99-100: 2020年6月号)

2015年12月に, 世界で初めてのデング熱ワクチンCYD-TDVがメキシコで認可された。しかし, 接種後の追跡調査の結果, CYD-TDVに問題点があることが指摘されており, 現在も新たなデング熱ワクチンの開発および臨床試験が行われている。本稿では, CYD-TDVおよび現在臨床試験が行われているその他のデング熱ワクチンについて概説する(1))。

まず, CYD-TDVは黄熱ウイルスのワクチン株であるYF17D株の前駆膜/エンベロープタンパク質(prM/E)領域を, DENV-1型からDENV-4型のprM/E領域に置換したキメラ生ワクチンである。第3相臨床試験の結果, 有効性(アジアおよび中南米における臨床試験でのvaccine efficacyはそれぞれ56.5%と60.8%)と安全性とが示された。CYD-TDVは初めに2015年12月にメキシコで認可され, その後, さらに20の国と地域で認可を受け使用されている。しかし, 接種後の長期追跡調査によって, DENVに対する抗体陰性者においては, CYD-TDVを接種した群におけるDENV感染による入院のリスクは, 非接種者群におけるDENV感染による入院のリスクに比べて高いという結果が報告された2)。(一方, 抗DENV抗体陽性者においては, CYD-TDVを接種した群におけるDENV感染による入院のリスクは ,非接種者群におけるDENV感染による入院のリスクに比べて低いという結果が示されている2)。)抗DENV抗体陰性者へのCYD-TDV接種後の調査結果を受けて, 世界保健機関(World Health Organization: WHO)は, 9~45歳のデング熱流行地域に居住する者のうち, 抗DENV抗体陽性者に対してCYD-TDVを接種することを推奨している3)

次に, DENVaxは, DENV-2型の弱毒株であるPDK-53株, および, PDK-53株のprM/E遺伝子をDENV-1, 3, 4型のprM/E遺伝子に置換した組み換えキメラウイルスから構成されるワクチンである4)。第3相臨床試験がアジア・中南米の26施設で行われた結果, 2回目接種後1年の時点におけるデング熱の発症およびデング熱による入院に対するDENVaxの効果は, それぞれ80.2%と95.4%であった5)。また, DENVax接種後の重篤な副反応の報告頻度は, プラセボ接種者群と比較して有意差を認めなかった5)。DENVax接種による長期的な効果および有害事象の有無を検証するために, 現在も追跡調査が継続している。

TetraVax-DVは, DENV-1型からDENV-4型のウイルスゲノムの3’末端の非翻訳領域から30塩基(DENV-3型ではさらに31塩基)を人工的に欠失させた組み換えウイルスを用いた弱毒生ワクチンである6)。なお, DENV-2型には3’末端の非翻訳領域から30塩基を人工的に欠失させたDENV-4型のprM/E領域を, DENV-2型のprM/E領域に置換した組み換えキメラウイルスを用いている6)。ブラジルで行われた第2相臨床試験では, TetraVax-DV初回接種後のDENV-1型からDENV-4型に対する抗体陽転率は, 76-92%であり, また, 接種に伴う重篤な副反応の発生は報告されなかった7)。現在, 第3相臨床試験が行われている。

Tetravalent dengue virus purified inactivated vaccine(TDENV-PIV)は, Vero細胞で増殖させたDENV1-4型のウイルス粒子を精製し, ホルマリンで不活化したワクチンである8)。第1相臨床試験において, 接種後の重篤な副反応の報告はなく, また, 接種者(2回接種)の85.5%で, DENVの4つの血清型すべてに対して中和抗体が陽転した結果が報告された9)

Tetravalent dengue DNA vaccine(TVDV)は, DENV-1型からDENV-4型のprMおよびEタンパク質を発現させるDNAワクチンである10)。第1相臨床試験では, 接種後の重篤な副反応は報告されていないが, 3回接種後の細胞性免疫の誘導率は70.0%であったものの, 中和抗体の陽転率は低い(接種者のうち, いずれかのDENVに対する中和抗体価が確認されたのは6.7%)という結果が報告された11)

最後に, V180は, DENV-1型からDENV-4型のそれぞれのEタンパク質のN末端の約80%に相当する部分をDrosophila S2細胞を用いて発現させ, 精製したサブユニットワクチンである12)。オーストラリアで行われた第1相臨床試験では, 接種に伴う重篤な副反応は報告されず, また, 接種者の85.7%に, DENV-1型からDENV-4型のすべてに対して中和抗体価が誘導された13)

現在認可されているCYD-TDVは, 非接種者が抗DENV抗体陽性であることを確認してから接種することが推奨されている。今後, 有効性および安全性が保証され, かつ, 抗DENV抗体の陽性/陰性にかかわらず接種することが推奨されるワクチンが開発・承認されることが望まれる。

 

参考文献
  1. 山中敦史ら, IASR 36: 44-45, 2015
  2. Sridhar S, et al., N Engl J Med 379(4): 327-340, 2018
  3. Dengue vaccine: WHO position paper, September 2018 - Recommendations, Vaccine 37(35): 4848-4849, 2019
  4. Osorio JE, et al., Lancet Infect Dis 14(9): 830-838, 2014
  5. Biswal S, et al., N Engl J Med 381(21): 2009-2019, 2019
  6. Durbin AP, et al., J Infect Dis 207(6): 957-965, 2013
  7. Kallas EG, et al., Lancet Infect Dis [Epub ahead of print], 2020
  8. Fernandez S, et al., Am J Trop Med Hyg 92(4): 698-708, 2015
  9. Schmidt AC, et al., Am J Trop Med Hyg 96(6): 1325-1337, 2017
  10. Beckett CG, et al., Vaccine 29(5): 960-968, 2011
  11. Danko JR, et al., Am J Trop Med Hyg 98(3): 849-856, 2018
  12. Coller BA, et al., Vaccine 29(42): 7267-7275, 2011
  13. Manoff SB, et al., Hum Vaccin Immunother 15(9): 2195-2204, 2019
 
 
国立感染症研究所ウイルス第一部 
 前木孝洋 中山絵里 谷口 怜 田島 茂 林 昌宏 西條政幸

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