IASR-logo

静岡県における日本紅斑熱患者発生状況とマダニの分布域の変化

(IASR Vol. 41 p136-137: 2020年8月号)

静岡県では, 2019年までに25名の日本紅斑熱患者の発生を認めている。患者発生状況と県内のマダニの生息状況調査から, 患者の発生にヤマアラシチマダニの関与が示唆されたので, その概要を報告する。

患者の発生状況

日本紅斑熱患者は2000年に初めて発生し, その後2013年に13年ぶりに発生して以降, 2015年から毎年確認されている。2017年9月は, 県東部の沼津アルプス周辺で関連のない5人が異なる場所で2週間の間に相次いで発症した。2019年は過去最高の10人の患者が発生し, 特に今まで発生のなかった地域で発生を認めた。2019年12月末までの患者総計は25名で, うち5名は死亡している(致命率20%)(図1)。25名の内訳は, 男性10名女性15名で, 年齢は29~84歳, 亡くなった5名は全員女性で, 年齢は70~84歳であった。発症月は5~11月で, 9月が最も多かった。

マダニの生息状況

静岡県では1989年から定期的に旗ずり法によりマダニを採取し, 生息状況を調査してきた。1989~91年は31地点, 1,720匹, 2属9種1), 2008~10年は110地点, 6,847匹, 4属13種2,3), 2013~15年は97地点, 3,325匹, 4属13種4), 2017~19年は138地点, 3,299匹, 4属11種を採取した。1989~91年の優占種はキチマダニであったが, 2008年以降は, フタトゲチマダニの占める割合が増加し, 現在の優占種となっている。また, 2008年以降は南方系マダニであるタカサゴチマダニ, ヤマアラシチマダニ, タカサゴキララマダニ, タイワンカクマダニが採取されるようになり, 2019年には, 本州では三重県, 千葉県, 島根県などに生息地が限局され, 日本紅斑熱の媒介が疑われるツノチマダニが伊豆東部地域で採取された。

これらのうちRickettsia japonicaの分離, もしくは遺伝子検出に成功したのは, 2008年に沼津アルプス周辺で採取したヤマアラシチマダニとタイワンカクマダニ各1匹2), 2019年に伊豆東部地域で採取したヤマアラシチマダニ1匹のみであった。

考 察

患者の推定感染地とヤマアラシチマダニ採取地の推移を図2に示した。ヤマアラシチマダニは1989~91年には採取されなかったが, 2000年に沼津アルプスで狩猟の際に感染したと思われる県内初の日本紅斑熱患者が確認された後, 2008年から沼津アルプス周辺で採取されるようになり2), その後2015年まで, 沼津アルプス周辺のみで日本紅斑熱患者の発生がみられた。2010年以降に, 県西部浜名湖周辺でヤマアラシチマダニが採取されるようになると3), 約10年後の2019年に浜名湖周辺地域で日本紅斑熱患者が発生した。2015年に, 伊豆東部地域でヤマアラシチマダニが採取されると4), 採取地周辺で翌2016年に患者が発生し, それ以降, 隣県との県境まで患者発生地域は拡大している。2017~19年の調査では, ヤマアラシチマダニの分布域はさらに拡大し, 新たに県中部地域でも採取されるようになり, 県内の日本紅斑熱発生地域はさらに増加・拡大していくことが予測される。

2017年から, 静岡県では日本紅斑熱患者の発生時, 県のホームページと報道機関を通じ注意喚起と啓発を行っているが, 今後は, マダニ分布域の拡大を踏まえた啓発を行っていきたい。

 

参考文献
  1. 川森文彦, 技術情報 10: 1-4, 1992
  2. 川森文彦ら, 静岡県環境衛生科学研究所報告 No52: 1-6, 2009
  3. 川森文彦ら, 静岡県環境衛生科学研究所報告 No53: 41-44, 2010
  4. 池ヶ谷朝香ら, 静岡県環境衛生科学研究所報告 No58: 35-38, 2015
 
 
静岡県環境衛生科学研究所   
 大石沙織 牛飼裕美 鈴木秀紀 阿部冬樹 長岡宏美

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan