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突発性発疹に関する最近の話題

(IASR Vol.41 p213: 2020年12月号)

1. はじめに

 突発性発疹(突発疹)は, ありふれた乳幼児の熱性発疹症で, 基本的に自然軽快する予後の良いウイルス感染症である。稀に熱性けいれんをはじめとする中枢神経合併症を併発し, 他のヘルペスウイルス同様, 免疫不全宿主で再活性化し, 特に造血幹細胞移植患者における移植後急性辺縁系脳炎の主要な起因病原体であることから, 中枢神経病原性については精力的に研究が進められている。1988年にYamanishiらにより起因ウイルスが発見され1)て30年以上経過しているが, 本稿では最近の新たな知見を中心に概説する。

2. Human herpesvirus 6Bと突発疹

 突発疹の原因はβヘルペスウイルス亜科に属するhuman herpesvirus 6(HHV-6)で, 現在はHHV-6A, HHV-6Bの2つのspeciesに分類されている。このうちHHV-6Bが突発疹の病原体であり, HHV-6Aの初感染像は不明である。HHV-6Bのレセプターは活性化Tリンパ球に発現しているCD134であり2), 造血幹細胞移植後のacute graft versus host disease等, T細胞が活性化する状況下でHHV-6Bが再活性化しやすいことは理解しやすい。さらに最近, ヒト化マウスを用いたHHV-6B感染モデル実験でも同様の現象が実証されている3)

 主要な感染経路は既感染成人からの水平感染と考えられており, 胎内感染を示唆する報告もあるがその頻度は低く, 同じβヘルペスウイルス亜科に属するcytomegalovirusのような胎内感染症を起こすことはない。HHV-6Bの初感染時期は, 約30年前に米国で行われた分子疫学研究では中央値は生後8か月で4), 我々が実施した本邦での血清疫学調査でも移行抗体が消失する生後6か月~1歳にかけてほとんどの乳児が初感染を受ける5)と考えられていた。しかしながら, 臨床現場では突発疹の年長化が指摘されており, 我々が2014~2016年にかけて実施した大学病院救急救命室(ER)受診者を対象とした研究でも, HHV-6B初感染年齢は生後14か月と年長化していた6)。さらに, 2歳未満の患児では約90%が典型的な突発疹であったが, 2歳以上の典型的な突発疹は約50%であり, 年長のHHV-6B初感染例は不顕性感染の割合が高いと考えられる。年長化の原因として乳児期からの集団保育等, 生活様式の変化が想定されるが, いまだ明らかになっていない。

3. HHV-6の中枢神経合併症

 HHV-6B初感染時の熱性けいれんは, 反復例, けいれん重積例, 部分けいれんなど, てんかん発症の要注意因子を満たすものの頻度が高い。また最近の我々の研究では, 複雑型熱性けいれんでERを受診した症例の約半数を突発疹が占め, 他の原因の複雑型熱性けいれんと異なり, 発熱から24時間以上経過してからけいれんが発症する例が有意に多いことが明らかとなった7)。さらに, より重症な脳炎・脳症症例は, 当初有熱期に発症する一次性脳炎を示唆する症例(髄液中ウイルスDNA陽性)の報告が多く, その中には壊死性脳症やhemorrhagic shock and encephalopathy syndrome(HSES)と診断される症例が多く含まれていた。一方, 最近は有熱期に熱性けいれんを来たした後, 解熱後に再度部分けいれんの群発を伴うけいれん重積型脳症(AESD)の病型8)をとる症例報告が増えている。2007~2010年にかけての小児脳炎脳症の全国調査と比べ, 最近実施された2014~2017年の全国調査9)では, 起因ウイルスの頻度は変わらずインフルエンザウイルスが最も高く, HHV-6が2番目に高かったが, インフルエンザ脳症の症例数が減少傾向にあるのに対しHHV-6脳症の患者数はほぼ横ばいであった。さらに興味深いことに, HHV-6脳症症例の年齢も平均1.1歳と, 以前に比べ上昇し, AESDが全体の15.3%を占め, 初回全国調査の5.8%から有意に上昇していた。脳炎脳症に加え, 最近HHV-6B感染の関与が示唆されている中枢神経疾患として内側側頭葉てんかん(mesial temporal lobe epilepsy: MTLE)がある。選択的海馬扁桃体切除術を受けたMTLE患者脳において, 9種のヒトヘルペスウイルス中HHV-6Bが最も高率に検出された(22-29%)10)。HHV-6検出群でmonocyte chemoattractant protein 1およびglial fibrillary acidic protein遺伝子発現が高値だった。これらの結果から, HHV-6Bの海馬・扁桃体への潜伏感染が宿主の遺伝子発現を変化させMTLE発症に関与している可能性が示唆された。海馬へのHHV-6B潜伏感染については, HHV-6B初感染脳炎死亡例の病理解析の結果, 海馬でのHHV-6B DNA量が非常に多かったことからも裏付けられる11)

4. Multiplex syndromic panel検査からわかったこと

 Multiplex PCR法などの分子生物学的手法による, 多数の病原体核酸を網羅的に検出するパネル検査が臨床現場に導入されつつある。不要な抗菌薬投与の使用抑制だけでなく, 結果的に医療コスト低減につながるといった理由から注目を浴びている。髄膜炎パネル検査内にHHV-6Bも候補病原体として加えられており, 導入前は起因病原体不明とされていたものが実はHHV-6B感染だったということもあり得る。カナダ12), 米国13)で実施された乳幼児の髄膜炎, 脳炎, sepsis疑い例の髄液検査で, それぞれ7.4%, 2.6%の髄液検体からHHV-6B DNAが検出されたとされており, 不要な抗菌薬, acyclovir投与の削減につながる可能性が示唆されている。また, 45例ずつのパネル検査導入前, 後の中枢神経感染症を疑われた小児例の検討では, 導入前は5例(10.9%)だけで起因病原体が判明したのに対し, 導入後では14例(30.4%)で起因病原体が判明(p=0.038), そのうち5例がHHV-6Bだったとされている13)。この研究においても, 2群間の比較で抗菌薬, acyclovir投与期間が導入後に有意に短縮されたことが示されている。ただし, HHV-6脳症例では必ずしも髄液中ウイルスDNAが陽性になるわけではなく, 正確なHHV-6B感染に伴う中枢神経合併症の診断には血清中のウイルスDNA検出や血清診断を組み合わせる必要がある。

5. おわりに

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行に伴い, 小児ウイルス感染症の定点報告患者数は軒並み激減しているが, 突発疹の報告数は例年に比し少ないものの, 他の感染症ほどではない。また, 定点報告の推移を詳細に確認すると, 夏季に報告数が増える傾向が認められる。Syndromic panel検査は, 確かに抗菌薬適正使用や医療費削減には有用で, 今後本邦においても導入が加速すると思われるが, ウイルス感染症としての突発疹にもまだ多くの謎が残されており, 緻密な臨床ウイルス研究をさらに継続する必要がある。

 

参考文献
  1. Yamanishi K, et al., Lancet 331: 1065-1067, 1988
  2. Tang H, et al., Proc Natl Acad Sci USA 110: 9096-9099, 2013
  3. Wang B, et al., J Virol 94(6): e01851-19, 2020
  4. Hall CB, et al., N Engl J Med 331(7): 432-438, 1994
  5. Yoshikawa T, et al., Pediatrics 84: 675-677, 1989
  6. Hattori F, et al., Pediatr Infect Dis J 38: e248-e253, 2019
  7. Miyake M, et al., Pediatr Neurol 109: 52-55, 2020
  8. Kawamura Y, et al., J Clin Virol 51: 12-19, 2011
  9. Kasai M, et al., Brain Dev 42(7): 508-514, 2020
  10. Kawamura Y, et al, J Infect Dis 212: 1014-1021, 2015
  11. Miyahara M, et al., Neuropathology, 2018
  12. Pandey U, et al., J Clin Microbiol 58(5): e00313-20, 2020
  13. agen A, et al., BMC Pediatr 20(1): 56, 2020

 
藤田医科大学医学部小児科学
 吉川哲史

 

 

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