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C型肝炎の診断・治療

(IASR Vol.42 p5-6: 2021年1月号)

 
はじめに

 2020年ノーベル生理学・医学賞は, 「C型肝炎ウイルスの発見」の功績により, Harvey J. Alter教授, Michael Houghton教授, Charles M. Rice教授に贈られた。彼らの功績は, その後, C型肝炎治療の劇的な発展につながり, これまで「不治の病」とされてきたC型肝炎は, 現在, 「治る病気」と認識される時代になった。

 C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus:HCV)は1989年に発見され, それまで非A非B型肝炎やアルコール性肝障害と診断されていた症例の大部分がHCVによる肝障害であることが明らかとなった。現在, HCV感染者は全世界に1億7,000万人, 本邦では100万-150万人存在すると推定されている。HCV感染がいったん成立すると, 高率に感染が持続し慢性肝炎へと移行する。慢性化した場合, HCV感染による炎症の持続により肝線維化が惹起され, 肝硬変や肝細胞がんへと進展する。このため, HCVは公衆衛生上極めて重要な病原ウイルスの1つとして位置づけられている。

診 断

 肝臓は予備能が高く, 「沈黙の臓器」とも呼ばれており, HCV感染後に自覚症状がないまま病態が進行することも稀ではない。したがって, 自覚症状がなくても, 健康診断などの機会に少なくとも1回は肝炎ウイルス検査を受けることが望ましい。特に, 健康診断などで肝機能障害を指摘された者, 1992年以前に大きな手術や輸血を受けた者, 1994年以前にフィブリノゲン製剤や1988年以前に血液凝固因子製剤による治療を受けた者, 家族にHCV感染者がいる者は, HCV感染の可能性が一般より高いと考えられるため, 肝炎ウイルス検査の施行が強く推奨される。

 C型肝炎の検査には, HCV感染を診断するためのHCV関連マーカー検査と肝炎の程度や肝予備能, 合併症(肝硬変, 肝細胞がん)の評価を目的とした検査がある。これらの検査は, C型肝炎の診断, 病態の把握だけでなく, 治療法の選択や治療効果および予後の判定・予測にも重要な役割を持つ。

HCV関連マーカー

 a. HCV抗体

 HCV感染の診断には, コアタンパク質領域と非構造(nonstructural:NS)タンパク質領域(第3世代ではNS3, NS4, NS5)に対応するリコンビナント抗原を用いた抗体測定系が広く用いられている。感度, 特異度に優れているためスクリーニングに適しているが, HCVの既感染でも抗体が陽性となるため, 現在の感染確認にはHCV RNAを測定する必要がある。

 b. HCV RNA定量

 HCV RNAの定量には, TaqManプローブを用いたリアルタイムPCR法が用いられる。HCV抗体陽性が確認された患者に対しては, リアルタイムPCR法によりHCV RNAの検出を行い, 同時にウイルス量を決定することが一般的である。HCV RNA量は, インターフェロン(interferon:IFN)を含む抗ウイルス療法の治療選択の際に使用された指標であったが, IFNを使用しない(IFNフリー)現在の直接作用型抗ウイルス薬(direct acting antiviral:DAA)治療においては, 治療法の選択基準に用いられない。

 c. HCV遺伝子型

 HCVは現在6つの遺伝子型(ゲノタイプ)に分類され, ゲノタイプ1型と2型については, それぞれに2つのサブタイプ(1a, 1bおよび2a, 2b)が存在する。本邦では1b, 2a, 2bが主である。一部のDAAを除き, IFNやDAAの抗ウイルス効果はゲノタイプの違いにより異なるため, 治療の際にはゲノタイプを決定することが不可欠である。しかし, ゲノタイプ検査には現在のところ保険適応がなく, 日常診療では一般的にセロタイプ(セログループ, 群別, グルーピング)検査が使用されている。

肝炎, 肝予備能, 合併症(肝硬変, 肝細胞がん)の評価

 肝炎の存在・程度, 肝予備能, 肝硬変や肝細胞がんなどの合併症の有無は, 血液検査, 画像検査, 肝生検により評価される。

 a. 血液検査

 HCV感染による肝臓の炎症の程度を評価するためには, 肝細胞からの逸脱酵素であるトランスアミナーゼ(aspartate aminotransferase:AST, alanine aminotransferase:ALT)が測定される。肝細胞の変性・壊死を最も鋭敏に反映する検査である。肝炎の進行に伴う肝予備能の変化は, 肝臓の重要な機能である「合成能」と「解毒代謝能」を調べることにより評価可能である。合成能の評価には, 特に, 血清アルブミン値とプロトロンビン時間が有用で, Child-Pughスコアの項目にもなっている。解毒代謝能の評価検査には, 血清ビリルビン値, ICG試験, 血中アンモニア値などが用いられる。

 慢性肝炎の診療において, 治療効果や肝発がんリスクなどを予測するために肝線維化の評価が重要となる。また, 肝細胞がんの早期発見に努めることも必要である。血液検査による肝線維化の評価法として, 血小板数や血清ヒアルロン酸値, 血清IV型コラーゲン値, 血清プロコラーゲンⅢペプチド(P-Ⅲ-P)値などが用いられる。簡便な血液検査の組み合わせにより算出可能なスコアリングシステムであるFIB-4 indexもスクリーニング検査として推奨されている。近年登場したMac-2結合蛋白糖鎖修飾異性体(Mac-2 binding protein glycosylation isomer:M2BPGi)は, 肝線維化の進展に伴って変化するタンパク質上の糖鎖構造を捉える新しいマーカーで, 高感度かつ肝臓特異的な線維化マーカーである。肝細胞がんに適用される腫瘍マーカーとしては, α-fetoprotein(AFP)およびそのL3分画, PIVKA-Ⅱがあり, 慢性肝疾患患者の肝細胞がんサーベイランスに用いられる。

 b. 画像検査

 肝臓の形態変化や肝硬変・肝細胞がんなどの合併症を発見するために, 腹部超音波検査やコンピュータ断層撮影(CT)検査, 核磁気共鳴画像(MRI)検査などによる画像診断が行われる。また, 肝細胞がんの検出や鑑別を目的とする場合には, より多くの正確な情報を得るために造影剤の静脈注射を併用する。肝線維化の評価には, 超音波・MRI検査装置を用いたエラストグラフィ(超音波エラストグラフィおよびMRエラストグラフィ)が用いられる。非侵襲的肝線維化評価法として高い診断精度を有しており, 肝線維化診断に限定すれば, 今後は肝生検(後述)に置き換わる可能性も持ち合わせている。

 c. 肝生検

 肝生検による肝臓の病理組織学的検討は, 線維化や壊死・炎症所見, 脂肪沈着や鉄蓄積の程度の把握に有用であり, 慢性肝炎診断のゴールドスタンダードである。しかし, 侵襲性やサンプリングエラー, 評価者間の診断の不一致など, 問題点も存在する。

治 療

 本邦では, 1992年からC型肝炎に対してIFNによる治療が開始された。IFN単独からリバビリン併用, さらにペグインターフェロン(pegylated interferon:Peg-IFN)とリバビリンの併用が標準的な抗ウイルス治療となったことにより血中HCV RNA持続陰性化(sustained virological response:SVR)率は向上したが, IFN中心の治療では約半数の症例においてHCVの排除が不可能であった。2011年にプロテアーゼ阻害薬が一般臨床で使用可能となり, Peg-IFN, リバビリンとの3剤併用により, 最終的にはSVR率が約90%にまで向上した。

 2014年にはIFNフリーのDAA治療が開始され, 95%以上のSVR率が得られている。さらに, 2017年には遺伝子型1-6のすべてのHCVに対して有効であるグレカプレビル/ピブレンタスビル配合錠が薬事承認された。本製剤による治療では, 治療期間が8週間まで短縮される一方で, SVR率がほぼ100%という高い有効性が示されている。また, 2019年には非代償性肝硬変に対するDAA治療も可能となった。

残された課題と対策

 C型肝炎治療の目標は, HCVの排除とこれに伴う肝線維化進展抑制および肝発がん予防である。このためには, 抗ウイルス治療を適切に行うことが重要であり, 本邦ではこの目標に近づきつつある。しかし, 現実には, 現行の治療法の恩恵を享受できない症例も数多く存在する。また, DAA治療不成功例にみられる高度耐性変異株の出現やHCV排除後の再感染も問題となっており, 対策が必要である。最後に, 抗HCV治療によるSVR症例では肝発がんが抑制されるものの, C型肝炎患者ではSVR後も健常者に比べて発がんリスクの高い状態が残存することが指摘されている。SVR後の発がんリスク因子として最も明確なものは肝線維化であり, 他に高齢者, 男性, 飲酒, 肝脂肪化, 糖尿病などが重要とされている。したがって, HCV排除後の症例においても肝発がんをモニターするための経過観察を続ける必要がある。特に, 発がんリスク因子を有する高リスク患者においては, 肝発がんに対する厳重な注意が必要である。

 

参考文献
  1. C型肝炎治療ガイドライン(第8版), 日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会編, 2020
  2. 横山 寛ら, 臨床検査 62(5): 580-585, 2018
  3. 高久史麿, 臨床検査データブック2017-2018, 医学書院, 2017

 
東京慈恵会医科大学    
臨床検査医学講座 政木隆博

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