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肝炎医療コーディネーター

(IASR Vol.42 p8-9: 2021年1月号)

 

 わが国の肝がんの主な原因であるウイルス性肝炎からの肝硬変や肝がんの死亡を減少させるためには, すべての国民が一生に1度は, 住民健康診断や職場の健康診断, 人間ドックあるいは術前検査などの機会に肝炎ウイルス検査を「受検」し, 感染が疑われれば, 精密検査を「受診」し, そして標準的な抗ウイルス治療を「受療」し, さらに治療後も肝がん発症リスクを念頭に置いた定期的な検査を受ける「フォローアップ」という4ステップが適切に進むことが重要である。また国民全員が日常生活における感染対策やワクチン接種, さらに差別や偏見に対して配慮することなど, 幅広く情報を認知する「予防」のステップも重要である。

 このような総合的な肝炎対策の必要性から, 一般市民や肝炎ウイルス検査の受検者, 患者に対して理想的な意思決定を支援し, 検査機関からかかりつけ医, 専門医療機関の連携を密に行う橋渡し的な存在が望まれ, 2009年に全国に先駆けて山梨県で肝疾患コーディネーターの育成が始まり, 2011年度からは厚生労働省の事業として全国的に肝炎医療コーディネーター(肝Co)の養成が進められた。また, 2017年4月に全国での均てん化に向けて, 厚生労働省健康局長から全国の都道府県知事に向けて, 肝Coの養成方法や役割, 活動内容について基本的な考えが通達された(図1)。2018年度中にはすべての都道府県で養成が開始され, 肝Coとなった16,000名超が国内の各所で活躍している(図2)。

 肝Coは, 看護師や保健師, 保健所や市町の行政職員, 医療機関や調剤薬局の薬剤師, 歯科医師や歯科衛生士, 臨床検査技師, 管理栄養士, 病院事務職員, 産業医や医療ソーシャルワーカー, 社会保険労務士などの幅広い医療系の職種や患者会の構成員などが行っている。主な活動内容は, 市民や患者等への啓発活動・情報提供, 相談支援・助言, 専門医とかかりつけ医間の橋渡し的な役割など, 多岐にわたっていて, それぞれの職種の強みを活かして活動を行っている。しかしながら, 地域によっては肝Coの認知度が低く, 活動も積極的に行えていないことが指摘されており, 肝Coの養成や活動を支援すべく, 2017年度から厚生労働省の肝炎等克服政策研究事業において研究が開始された。

 全国の肝Coに対して活動状況や現場が抱える課題等に関する調査を行ったところ, 肝Coからは「自分の立場での具体的な活動の仕方が判らない」, 「病気や医療費助成制度をわかりやすく説明できるリーフレットが欲しい」という声が多く, 肝Coを養成する立場である自治体からは「養成する方法が分からない。他県での取り組みを知りたい」などの意見があった。都道府県ごとに研修会の開催時期や開催時間の長さ, 取り上げる研修のテーマが違っており, 肝Coを養成する自治体が他県の状況を参考にできるように, 調査結果を集約した報告書を作成した(肝炎医療コーディネーター養成に関する要綱の全国都道府県アンケート調査のまとめ)。また, 患者から質問されやすいテーマに関するQ&A形式のポケットマニュアルや, 肝Coの活動に関する具体的でわかりやすい教本を作成した。こうした資材は全国の肝疾患診療連携拠点病院や自治体へ配布され, 現場で活用されている。さらに全国の肝Coがインターネットで自由にアクセスできる活動支援ポータルサイト(医療従事者向け肝炎医療コーディネータ班活動支援サイト, https://kan-co.net/potal/)を作成し, 成果物や肝Coの優良活動事例等の動画コンテンツ等を自由に閲覧・ダウンロードできるようにしている1)

 一方で, 2019年の第55回日本肝臓学会総会では, 同学会としては初めて, 肝Coをテーマとしたセッションが開催され, 全国から49件の活動報告がなされた。眼科や整形外科などの非肝臓専門の診療科で肝炎ウイルス陽性と判明した患者を, 漏れなく肝臓専門医への受診につなげる看護師や臨床検査技師の取り組みや, 肝臓病教室や料理教室を開催する管理栄養士・薬剤師・医療ソーシャルワーカーなどの取り組みなど, 多くの優良事例が全国の肝Coに共有された。これ以降の日本肝臓学会や日本消化器病学会でも肝Coのセッションが開催され, さらに多職種・多方面での活躍が明らかになり, 全国の均てん化に資する情報発信にもつながっている2)

 こうした肝Coの活躍もあり, 肝炎対策の第一歩である「受検」は進んできているが, 肝炎ウイルス検査で陽性と判明しても, 専門医への受診や抗ウイルス治療の受療を思い留まっている者が少なからず存在している。また, 依然としてウイルス性肝疾患に対する差別や偏見事例は全国的に問題となっている。そこで, 対象者の深層心理や背景を理解し, 実効的な啓発および情報発信を多職種協働で行っていく必要があり, 幅広いフィールドに存在する肝Coの活躍に期待が寄せられている。

 

参考文献
  1. 江口有一郎, 肝炎ウイルス検査受検から受診, 受療に至る肝炎対策の効果検証と拡充に関する研究, 厚生労働行政推進調査事業費肝炎等克服政策研究事業 令和元年度総括・分担研究報告書, 2020
  2. 第55回日本肝臓学会総会メディカルスタッフセッション記録集

 
佐賀大学医学部附属病院肝疾患センター
 磯田広史 高橋宏和        
ロコメディカル総合研究所      
 江口有一郎

 

 

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