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群馬県前橋市を中心とした外国人の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の集積事例

(IASR Vol. 42 p42-43: 2021年2月号)

 

 群馬県前橋市では2020年10月初旬より, 外国人留学生を中心に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の集積を認めた。本事例の全体像および, 本事例の対応を通して得られた外国人コミュニティにおけるCOVID-19対策の課題や, 今後に向けた対応についてまとめた。

事例の全体像

 調査方法

 COVID-19陽性例は症状の有無にかかわらず, 核酸増幅法検査(PCR法, LAMP法)または抗原検査で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が検出され, 2020年9月25日~10月25日に前橋市保健所に報告された者とした。

 保健所職員の聞き取り調査の結果を収集した。陽性例が発生した施設には視察を行うとともに, 関係者からの聞き取り調査を行い, 記述解析によりまとめた。

結果と考察

 陽性例は64名, うち男性が46名(72%), 年齢中央値が24歳(範囲:20~83歳)であった。本事例の有症状の陽性例40名のうち, 発症時に37℃以上の発熱を呈したのは10名(25%)であった。一方, 37℃以上の発熱, 頭痛, 咽頭痛, 咳のいずれかを呈した者は35名(88%)であった。死亡例は認めなかった。

 陽性例のうち, 学生が55名(86%)で, 所属する学校は9カ所であった。55名中47名(85%)はA学校の学生であった。学生はすべて外国人留学生であった。陽性例の学生10名(18%)は外国人向けアパート(B)に居住し, 他の学生は個別のアパート等に居住していた。前橋市保健所は陽性例探知後に医師会へ陽性例発生の情報提供を行った。

 A学校で陽性となった学生47名のクラスは, 28クラス中18クラスに分散し, 発生したクラスに偏りはなかった。陽性例の学生の国籍は3カ国で, 41名(87%)がC国籍であった。A学校における国籍別の陽性割合は3カ国とも4-9%で大差はなかった。校内では事例発生前より健康チェック, マスク着用, 手指衛生の励行等が実施されており, 学校が主要な感染拡大の場の可能性は低いと考えられた。

 陽性例が10名検出されたアパートBには約30室に約60名の学生が2-4名/室で居住していた。事例発生当時はマスク未着用者が多かった。居住者はアパート内にある食堂で1日2食が提供され, 食事を共にする機会があった。初発例の探知が事例全体で最初の発症日から約10日後で, 陽性例の約半数が無症状であったこともあり, アパート内での感染拡大の可能性が考えられた。

学生は多くがアルバイトを行い, 勤務先は県内外の製造施設が多かった。陽性となった学生の勤務先の製造施設は, 出勤時に検温中心の健康チェック, 製造エリア内での手洗い, 消毒, マスク着用の徹底がなされていた。製造エリア内での濃厚接触の可能性はないと考えられたが, 更衣室, 送迎バス, 喫煙所ではマスク未着用での会話機会の可能性があり, 感染拡大の場の可能性が考えられた。

 事例発生当時, 祭事の時期と重なり, 同じ文化圏出身者で集まる食事の機会があった。また, 学生に限らず, 同じ国や文化圏の人と一緒に会話や行動する機会があった。本事例は留学生を中心としたCOVID-19集積であったが, 学校, 住居, 勤務先, プライベート活動が複雑に絡み, 感染経路は多様であったことが考えられた。

今後の課題と対応

 ①外国人への情報伝達およびコミュニケーション

 留学生の情報源は, 日本のテレビや日本人向けのSNS等でなく, 母国語のSNSやコミュニティであった。共同生活者が多く, 各文化圏独自の習慣や祭事があった。日本の感染状況や適切な感染対策に関する情報伝達が不十分であった可能性が考えられた。外国人の生活習慣や情報伝達手段の実態把握, よく利用されているSNS等を用いた情報配信, コミュニティの中心人物との関係構築, 外国人の諸手続き窓口等との連携が重要であると考えられた。

 ②医師会や事業所への情報伝達およびコミュニケーション

 前橋市保健所による, 陽性例発生時の医師会, 学校, 各事業所に対して行った適時適切な情報共有は, 自治体と関係機関との関係を良好にし, 地域全体の感染対策強化に繋がると考えられた。

 ③広域事例対応

 本事例は勤務先等が保健所地域をまたぐ広域事例であり, 個別保健所のみでは, 全体像把握に限界があり, 工夫がなされた。今後も広域事例の連絡体制, 情報共有のしくみ, 関係機関等の調整を事前に検討しておくことや, 平時より関係機関とのコミュニケーションを取っておくことが有効である。

 ④事業所等の対応

 国籍に関係なく, 無症状例または発症前で無症状の感染者が勤務している可能性を常に考慮し, 感染を拡大させない対策(身体的距離を保つ, 出勤時やプライベートを含め, 人と接する場では常時マスクを着用する等)を継続して行うことが重要である。特に健康チェックは, 体調の良し悪しを尋ねるだけでなく, 発熱以外の症状(頭痛, 咽頭痛, 咳, 倦怠感, 嗅覚・味覚障害等)を具体的に確認することが重要である。

 在留外国人を対象とした調査1)や外国人に関する記事2)で, COVID-19流行期の外国人に関する課題は, 共同生活の多さ(経済的, 相互補助等の理由), 習慣や生活スタイルの違い, 医療機関受診の壁(軽症で受診する習慣がない, 言語の不安, 相談先等の情報不足), 等が挙げられている。在留外国人の習慣や生活スタイルを理解するとともに, 情報伝達やコミュニケーション方法の改善をはかることが早急の課題であると考えられた。

 謝辞:本事例の対応にご尽力いただいた群馬県, 高崎市および関係機関をはじめとする多くの関係者の皆様に深謝いたします。

 

参考文献
  1. 在住外国人の新型コロナウイルス感染症に関する状況調査(FUKUOKA NOW)
    https://www.fukuoka-now.com/ja/news/results-for-fukuoka-foreign-residents-survey-on-covid-19/
  2. Japan faces balancing act over virus clusters among foreign nationals(The Japan Times)
    https://www.japantimes.co.jp/news/2020/11/22/national/social-issues/coronavirus-clusters-foreign-nationals-japan-discrimination/

 
前橋市保健所           
国立感染症研究所感染症疫学センター  

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