国立感染症研究所

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ヒトアデノウイルス89型と5型の新規組換え型株の検出―愛知県

(IASR Vol. 42 p78-79: 2021年4月号)

 

 2016年以降にヒトアデノウイルス5型(Ad5)と血清型別していた分離株にAd89とAd5の新規組換え型Adが混在していることが判明したので報告する。

 Adは感染症発生動向調査事業において5類定点把握疾患である咽頭結膜熱, 流行性角結膜炎や感染性胃腸炎の病原ウイルスであり, 愛知県では病原体サーベイランスの一環としてこれら疾患患者の検体を中心にAdの検索を行っている。当所における従来のAd検出は, ウイルス分離株の血清型別と並行して, 臨床症状からAdの感染が疑われた患者検体について遺伝子検出および型別を行っていた。しかし, 遺伝子型別は主にhexon領域のみに基づいて行っていたことから, 近年検出数が増加している組換え型Adの型別には対応できず, 検出Adに組換え型Adが混在している可能性が考えられた。そこで, 愛知県の患者検体から分離された過去のウイルス株を用いて組換え型Adの検索を行うこととした。

 AdはA-G種に分類されており, 本研究では, 最も多く検出されるC種Ad1, 2, 5, 6に着目することとした。今回用いた分離株は, 2014年4月~2019年3月までに愛知県内(名古屋市を除く)の病原体定点にて採取された糞便, 咽頭ぬぐい液, 尿, 結膜ぬぐい液9,483検体をVero, HeLa, RD-A細胞へ接種したもののうち, Ad様細胞変性効果(CPE)がみられ, 抗血清を用いた中和試験により血清型別されたものである。中和試験によりC種に型別された株は220株(Ad1:59株, Ad2:114株, Ad5:39株, Ad6:8株)であった。これらから臨床診断名に偏りがないように株を選抜し, Ad1:15株, Ad2:22株, Ad5:22株, Ad6:6株, 計65株について, 病原体検出マニュアル1)に準じて, penton base(P), hexon(H)およびfiber(F)領域の塩基配列の決定を試みた。3領域すべてを解析できた株は65株中62株であり, それぞれについて系統解析を行った。その結果, hexonおよびfiber領域に関しては, 中和試験による血清型別と同じ型に分類された。penton base領域に関しては, 血清型のprototypeと異なる多様なクラスターに分類された。このうち, 2019年に報告されたAd89[P89/H2/F2]2)と高い相同性のみられた6株に着目した(図A)。Ad89はC種に属し, penton base領域に独自の配列を有するAd2との組換え型Adである。この6株はpenton baseのRGD loop領域のアミノ酸配列に, Ad89に特徴的な363番目のアラニン(A)のグルタミン酸(E)への置換, および364番目のプロリン(P)の欠失がみられ, RGD loop領域のアミノ酸配列はAd89と100%一致した。その一方で, hexonおよびfiber領域はAd5に分類され(図B, C), このことからAd89とAd5の組換え型Ad[P89/H5/F5]である可能性が示唆された。これらの株は2016, 2018, 2019年の各1名, 2017年の3名の患者検体から分離されており, いずれも中和試験による血清型別ではAd5と同定されていた。

 Ad89の検出は日本においても報告されている3)が, Ad5との組換え型はいまだ報告されておらず, 新規組換え型Adであると考えられる。C種は, D種やB種に比べ, 組換え型がほとんどみられないとされてきた。しかし, 本研究の結果から, C種においても複数領域を解析し, 組換え型を含めた型別を行う必要があると考えられる。今後, さらに多くの株について検討し, 臨床症状との関連を明らかにすることにより, 公衆衛生の向上に寄与できると考えられる。

 謝辞:本研究を進めるにあたり研究助成をいただきました公益財団法人大同生命厚生事業団に深く感謝いたします。

 

参考文献
  1. 咽頭結膜熱・流行性角結膜炎検査, 診断マニュアル(第3版) 国立感染症研究所感染症疫学センター
  2. Dhingra A, et al., Sci Rep 9(1): 1039-1051, 2019
  3. Takahashi K, et al., Viruses(12): 1131-1145, 2019

愛知県衛生研究所  
 廣瀬絵美 中村範子 皆川洋子 安達啓一 安井善宏
 伊藤 雅 佐藤克彦  

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