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自立援助ホームおよび保育施設での腸管出血性大腸菌O111による集団感染事例

(IASR Vol. 42 p92-93: 2021年5月号)

 

 2020年12月, A市内の自立援助ホームおよびB市内の保育施設において腸管出血性大腸菌(EHEC)O111:H-(VT2産生)(以下, O111)による集団感染事例が発生したので, その概要と細菌学的検査結果を報告する。

1. 事例の探知

 2020年12月7日, A市内の自立援助ホーム代表者よりEHEC感染症の疑い患者が5名発生しており, 当該施設での12月1日の食事が原因と推定しているとの連絡が滋賀県草津保健所にあった。通報を受け, 当所は食中毒と感染症の両面から調査を開始した。

 入所者7名と卒業生1名, 当日の調理担当1名を含む職員3名の計11名が12月1日に当該施設で食事をしていた。喫食者のうち8名が12月4~9日にかけて発症しており, そのうち5名からO111が検出された。5名の内訳は入所者3名, 職員2名であり, 調理担当の職員は発症しておらずO111は検出されなかった。無症状者も含めて入所者・職員等計18名に検査を実施したところ, 上記5名以外にはO111は検出されなかった(表1)。

2. 経 過

 <自立援助ホームでの発生>

 有症状者が12月1日の喫食者に限られ, 発症日も集中していることから食中毒の可能性も考えられたが, 当該施設のふきとり検体および交代で調理を担当する3名の職員の検体はすべて陰性であり, 食中毒とは断定できなかった。自立援助ホームでの発症日ベースの有症状者数をに示す。

 <家庭内への感染拡大>

 12月9日に発症し, O111が検出された職員の同居家族3名(配偶者, 子2名)が12月10~18日にかけて発症し, 接触者健診を実施したところ3名全員からO111が検出された。そのため, 配偶者, 子2名が訪問していた別居家族において無症状の接触者3名に検査を実施したところ, 2名が陽性であった。また, 子2名の世話をした別の別居家族である接触者1名は陰性であった。

 <保育施設の調査および接触者健診>

 子2名はB市内の同じ保育施設の0歳児クラス(15名在籍)と2歳児クラス(24名在籍)へ通園していたため, 施設調査を実施した。調査の結果, 0歳児クラスにおいては小グループごとにおむつ交換が行われていたため, 患児と同じグループの4名の乳幼児と, おむつ交換等に関わっていた保育士4名を接触者と判断した。接触者8名および調査時点で有症状であった2歳児クラスの幼児1名, 保育士1名の計10名に検査を実施したところ, 全員陰性であった。

 <保育施設での感染拡大>

 接触者健診の結果から, 保育施設内での感染の拡大はないと思われたが, 施設調査において接触者に当たらないと判断した0歳児クラスの幼児1名が12月19日に発症し, 12月25日に医療機関で実施された検査によりO111が検出された。この幼児の同居家族(父, 母, 妹)に接触者健診を実施したところ, 母からO111が検出された。このことから再度施設調査および0歳児クラス乳幼児15名の保護者への聞き取りを行い, 接触者として保育士3名(再検査1名含む)と1月1日時点で有症状(軽微なものも含む)であった幼児8名(再検査3名含む)に検査を実施した。その後, 1月6日に発症した幼児1名にも検査を実施したが, 計12名の結果は全員陰性であった。

 今回の集団感染事例において, 無症状病原体保有者2名を含む12名の陽性者が確認されたが, 重症者はおらず全員が回復した。以後, 保育施設での発症者は認められず, 最終患者の発生から最大潜伏期間の2倍が経過し, かつすべての陽性者の陰性化を確認した。管内で他に発生もないことから終息と判断した。

3. 細菌学的検査結果

 今回のEHEC O111の12株は, 国立感染症研究所で反復配列多型解析(MLVA)が実施された。MLVA typeは20m3046が11株および20m3047が1株であったが, complexは12株すべて20c307であった。他府県では同一のMLVA type株は報告されていなかった。

4. 考 察

 自立援助ホームにおいて, 入所者1名が11月27日に下痢, 腹痛の症状を呈していたが, 勤務先の飲食店で11月30日に実施された検査の結果は陰性であり, 陽性者の疫学調査からも感染源は特定できなかった。今回の集団発生は食中毒ではなく, 感染経路を人から人への接触感染とする二次感染が原因と考えられた。

 今回の事例では, 大人数が生活を共にする自立援助ホームでの感染拡大と, 家庭内感染, 保育施設での感染拡大を含めると四次感染まで感染が広がった点が問題として挙げられた。自立援助ホームおよび家庭内, 保育施設の検査結果を表1および表2, 3に示す。

 自立援助ホームの環境として, 入所者は自炊をしている者を除いて, 毎日職員が施設内で調理した夕食を食べていた。入所者は同じフロアで生活し, 加えて職員も食事場所やトイレを共有している環境下で, 手指衛生が徹底できていなかったことが今回の感染拡大の一因と考えられた。

 保育施設では, 0歳児クラスにおいて, 小グループごとにおむつ交換が実施されていたが, 保育士はおむつ交換ごとの手指衛生を実施していなかった。当初患児と同一グループを接触者と判断したが, 患児と違うグループであった幼児が感染していたことから, 保育中の乳幼児同士の関わりの中での感染が考えられた。

 排泄が自立しておらず, ずり這い, ハイハイをする乳幼児も多い0歳児クラスにおいては, 感染力の強いEHECが持ち込まれると, おむつ交換の場以外でも二次感染が起こるリスクが高いと考えられた。普段からの流水石鹸手洗いの励行や, 汚物の適切な処理が二次感染予防として重要である。

 また, 保育施設をはじめとする低年齢児の集団生活の場では, 無症状病原体保有者の存在を念頭に, 直接の接触が確認できない場合であっても, 同一空間で生活している場合は接触者健診をより広く行うことも選択肢として考慮する必要がある。ただし, 無症状の乳幼児に広く検査を実施することや登園自粛を要請するには保育施設, 保護者の協力が不可欠であり, 一斉検査が困難な場合も考えられる。

 集団生活の場において感染が広がることが, すなわち家庭内へのEHECの持ち込み, そしてさらなる感染拡大につながるため, 今後も陽性者が集団生活をしている事例が発生した場合は, 調査のうえ, 二次感染予防のための指導を徹底する必要がある。


 
滋賀県草津保健所   
 胡井美翔 山本茂美 黒橋真奈美 荒木勇雄
滋賀県衛生科学センター
 石川和彦

 

 

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