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2020年に分離された腸管出血性大腸菌のMLVA法による解析

(IASR Vol. 42 p96-97: 2021年5月号)

 

 国立感染症研究所(感染研)細菌第一部では2014年シーズンから腸管出血性大腸菌(EHEC)O157, O26, O111, 2017年からさらにO103, O121, O145, O165, O91について, 反復配列多型解析(multilocus variable-number tandem repeat analysis:MLVA)法 による分子疫学サーベイランスを行っている。本稿では2020年3月30日時点における, 2020年分離株のMLVA法による解析結果をまとめた。

 感染研に送付された2020年のEHEC分離株は2,497株(同時期前年比19%減;2018年6月29日付の厚生労働省事務連絡「腸管出血性大腸菌による広域的な感染症・食中毒に関する調査について」に基づいて送付されたMLVAデータ294株分を含む)であり, このうち2,232株(89%)をMLVA法で解析し, 型名を付与した。各血清群における解析株数, 検出型数およびSimpson’s Diversity Index*(SDI)は, O157が1,343株, 565型, 0.993(0.996), O26が515株, 189型, 0.975(0.981), O111が91株, 55型, 0.976(0.960), O103が169株, 54型, 0.943(0.898), O121が58株, 25型, 0.877(0.947), O145が20株, 12型, 0.921(0.831), O165が4株, 4型, 1.00(1.00), O91が32株, 28型, 0.990(0.994)であった(カッコ内は昨年同時期のSDI)。株数の同時期前年比は, O157:21%減, O26:1.8%増, O111:45%減, O103:15%減, O121:26%減, O145:78%減, O165:増減なし, O91:22%減であった。

 表1に血清群O157, O26, O111のうち検出された菌株数が多かったMLVA型およびその各遺伝子座のリピート数を示す。

 MLVAでは, リピート数が1遺伝子座において異なるsingle locus variant(SLV)など, 関連性が推測される型をコンプレックスとしてまとめる様式をとっている。2020年は73のコンプレックスが同定された。

 MLVA法によって試験した菌株に関し, 送付地方衛生研究所(地衛研)等(機関)の数に基づいて広域株の検索を行った。5以上の機関で検出された広域コンプレックスは15種類, コンプレックスに含まれないが5機関以上で検出された広域型は11種類であった。計456株が広域コンプレックス/型に含まれた。上位の当該コンプレックス/型および分離地域(ブロック)は表2に示すとおりである。このうち, 2020年に発生した集団事例に関連した20c022(本号4ページ特集関連資料2:事例4の株を含む), および20c041について, 当該コンプレックスに含まれる菌株の分離地域およびMLVA型に基づくminimum spanning treeをに示す。

 MLVA法により迅速な菌株解析が可能となったことで, 集団事例および家族内事例における菌株の同一性, 散発例も含めた事例間の関連性および広域性の有無などの情報がよりリアルタイムに還元できるようになってきている。また, 上記事務連絡によって, 血清群O157, O26, O111について地衛研で実施したMLVAデータから直接MLVA型を付与し, 当該型の一覧をMLVAリストとして共有することで, より早く情報共有が可能となっている。今後も迅速な菌株解析ならびに情報共有に努めていくので, 引き続き関係機関のご理解とご協力をお願いしたい。

 *多様性を表す指数の1つ。0-1の範囲で1に近いほど多様性が高く, 0に近いほど多様性が低いことを示す。

 

 
国立感染症研究所細菌第一部
 泉谷秀昌 李 謙一 伊豫田 淳 大西 真  

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