EHEC感染症は感染症法上, 3類感染症に定められている。本感染症を診断した医師は直ちに保健所に届出を行い（http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-03-03.html）, 保健所はその情報を感染症サーベイランスシステム（NESID）に報告する。医師が食中毒として保健所に届出た場合や, 保健所長が食中毒と認めた場合は食品衛生法に基づき, 各都道府県等は食中毒の調査を行うとともに厚生労働省（厚労省）へ報告する（http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO233.html）。地方衛生研究所（地衛研）はEHECの分離・同定, 血清型別, 毒素型（産生性が確認されたVT型またはVT遺伝子型）別等を行い, その結果をNESIDに報告する（本号3ページ）。国立感染症研究所（感染研）細菌第一部は必要に応じて地衛研から送付された菌株の血清型, 毒素型の確認を行うと同時に, 反復配列多型解析（MLVA）法（本号11ページ）やパルスフィールド・ゲル電気泳動（PFGE）法による分子疫学的解析を行っている。これらの解析結果は各地衛研へ還元されるとともに, 必要に応じて食中毒調査支援システム（NESFD）で各自治体等へ情報提供されている。

感染症発生動向調査:NESIDの集計によると, 2017年にはEHEC感染症患者2,606例, 無症状病原体保有者（患者発生時の積極的疫学調査や調理従事者等の定期検便などで発見される）1,298例, 計3,904例が報告され（表1）, 例年同様夏期に報告が多かった（図1）。都道府県別報告数（無症状を含む）は東京都, 神奈川県, 埼玉県, 北海道, 千葉県, 愛知県, 福岡県, 大阪府, 岩手県, 長野県の上位10都道府県で全体の57％を占めた。人口10万対では岩手県（12.3）が最も多く, 長野県（6.6）, 山形県（5.6）, 佐賀県（5.4）, 岐阜県（5.0）がそれに次いだ（図2）。0～4歳の人口10万対報告数では, 保育所での集団発生事例が報告された岩手県や佐賀県が多かった（図2）。報告に占める有症者の割合は例年同様男女とも30歳未満, 65歳以上で高かった（図3, 参考）。

HUSを合併した症例は111例（有症者の4.3％）で, そのうち73例からEHECが分離された。O血清群の内訳はO157が58例で, 毒素型はVT2陽性株（VT2単独またはVT1&2）が59例を占めた。有症者のうちHUS発症例の割合が最も高かったのは5～9歳の低年齢層で8.0％であった（本号12ページ）。届出時点でのEHEC感染による死亡例は10例であった。

地衛研からのEHEC検出報告:地衛研から報告された2017年のEHECの菌検出数は1,689であった。この検出数は, 保健所等が必要に応じて, 医療機関や民間検査機関に対して検出された株の提出を求める等検査を実施した実績であるため, EHEC感染者報告数（表1）より少ない。全検出数における上位のO血清群の割合は, O157が54％, O26が25％, O103が6.6％であった（本号3ページ）。毒素型でみると, 2017年は例年同様O157ではVT1&2が最も多く, O157の53％を占めたが, VT2単独もほぼ同数の47％であった。O26, O103ではVT1単独が最も多く, それぞれのO血清群で99％, 100％を占めた。O157が検出された908例の主な症状は下痢60％, 腹痛59％, 血便48％, 発熱19％であった。

集団発生:2017年に地衛研からNESIDに報告されたEHEC感染症集団発生のうち, 菌陽性者10人以上の事例を表2に示す。報告された全10事例中6事例は保育施設における人から人への感染によるものと推定された。一方, 「食品衛生法」に基づいて都道府県等から報告された2017年のEHEC食中毒は17事例, 患者数168名（菌陰性例を含む）であった（本号4ページ）（2014年は25事例766名, 2015年は17事例156名, 2016年は14事例252名）。2017年に発生した主な集団食中毒事例として以下のものがある:①5月に滋賀県の飲食店で発生したO157による食中毒事例（患者数11名）;②8月に愛知県における仕出し弁当の喫食が原因となったO157による食中毒事例（患者数36名）;③8月に埼玉県, 群馬県の惣菜店で販売された食品が原因となったO157による食中毒事例〔患者数24名, 死者1名（本号4ページ, 特集関連資料2事例No.5および8の合計）〕;④8月に岡山県の焼肉店での食事が原因となったO157による食中毒事例（患者数16名）;⑤8月に愛知県の飲食店での食事が原因となったO157による食中毒事例（患者数12名）;⑥10月に新潟県で発生した豚肉と鶏肉の串焼き（焼き串）の喫食が原因となったO157による食中毒事例（患者数15名）（本号7ページ）。これら以外にも感染研細菌第一部での解析から, 疫学的関連が不明な散発事例間で同一のMLVA型またはPFGE型を示す菌株が広域から分離されていることが明らかとなっている（本号4＆11ページ）。

予防と対策:牛肉の生食による食中毒の発生を受けて, 厚労省は生食用食肉の規格基準を見直した（2011年10月, 告示第321号）。さらに, 牛肝臓内部からEHEC O157が分離されたことから, 牛の肝臓を生食用として販売することを禁止した（2012年7月, 告示第404号）。2012年には, 漬物によるO157の集団発生を受けて, 漬物の衛生規範が改正されている（2012年10月, 食安監発1012第1号）。

EHECは少量の菌数（100個程度）でも感染が成立するため, 人から人への経路, または人から食材・食品への経路で感染が拡大しやすい。例年同様, 2017年も飲食店等を原因施設とする食中毒事例（本号4ページ特集関連資料2）が発生しており, EHEC感染症を予防するためには, 食中毒予防の基本を守り, 生肉または加熱不十分な食肉等を食べないように注意を喚起し続けることが重要である（http://www.gov-online.go.jp/useful/article/201005/4.html）。

保育所での集団発生も多数発生しており（表2, 本号8＆9ページ）, その予防には, 手洗いの励行や簡易プール使用時における衛生管理が重要である（2018年改訂版・保育所における感染症対策ガイドラインhttp://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000201596.pdf）。家族内や福祉施設内等で患者が出た場合には, 二次感染を防ぐため, 保健所等は感染予防の指導を徹底する必要がある。