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新型コロナワクチンの副反応について

(IASR Vol. 42 p145-147: 2021年7月号)

 
予防接種法に基づく定期の予防接種等における副反応疑い報告制度

 日本において, 定期の予防接種等における副反応疑い報告制度は予防接種法第12条に定められており, 医療機関の開設者又は医師が, 定期の予防接種等を受けた者が, それが原因と疑われる症状を呈していると知ったときは, 厚生労働大臣に報告を行わなければならない。報告の対象は予防接種法施行規則第5条に規定されており, 予防接種ごとに副反応として起こりうる症状を呈した場合や, 医師が予防接種との関連性が高いと認める症状であって, 入院治療を要するものや死亡・障害に至る恐れのあるものとされた場合である。医療機関等から医薬品医療機器総合機構(PMDA)に報告された情報は, 厚生労働省および国立感染症研究所に共有され, 厚生科学審議会(予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会)と薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の合同開催(審議会)で評価を行う1)。この他に, 比較的頻度の高い健康状況の変化(発熱, 接種部位の腫れ等)を把握する仕組みとして, 予防接種後健康状況調査があり, 接種後一定期間の症状・疾病に関して調査・評価が行われる。

新型コロナワクチンと法整備

 2020(令和2)年12月9日に予防接種法及び検疫法の一部を改正する法律(令和2年法律第75号)が公布, 施行され, 新型コロナウイルス感染症にかかわるワクチンは臨時接種に位置付けられた。新型コロナワクチンはこれまでに使用実績がないことから審議体制の強化が検討され, 接種開始後は通常より高頻度で審議会を開催し, 緊急時にも評価が行われるとされた。副反応疑い報告の対象の症状は, アナフィラキシー(因果関係の有無を問わず, 接種後4時間以内に発生した場合), 医師が予防接種との関連性が高いと認める症状であり, 入院治療を必要とするもの, 死亡, 身体の機能の障害に至るもの, 死亡若しくは身体の機能の障害に至るおそれのあるものと定められた。また, これまでワクチン接種との因果関係が示されていない症状も含め, 幅広く評価を行っていく必要があることから当面の間, 以下の症状〔けいれん, ギラン・バレ症候群, 急性散在性脳脊髄炎(ADEM), 血小板減少性紫斑病, 血管炎, 無菌性髄膜炎, 脳炎・脳症, 脊髄炎, 関節炎, 心筋炎, 顔面神経麻痺, 血管迷走神経反射(失神を伴うもの)〕については規定による副反応疑い報告を積極的に検討するとともに, これら以外の症状についても必要に応じて報告を検討することとされた。

新型コロナワクチンの接種状況と副反応疑い報告

 2021(令和3)年2月14日にファイザー社のコロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)(コミナティ筋注)が医薬品医療機器等法に基づいて製造販売承認され, 2月16日に政省令が改正され, 2月17日から医療関係者への先行接種が, 4月12日からは高齢者への接種が開始された。5月21日には武田薬品工業株式会社/モデルナ社のコロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)(COVID-19ワクチンモデルナ筋注)が製造販売承認され, 5月24日から接種が始まった。5月21日にアストラゼネカ社のコロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン(遺伝子組換えサルアデノウイルスベクター)(バキスゼブリア筋注)も製造販売承認されたが予防接種法上の接種には位置付けず, 使用のあり方については引き続き検討することとされた。

 令和3年5月26日に開催された審議会では, 5月16日までに6,112,406回の接種(4,380,733人に接種, うち高齢者に対して913,245人)が行われたと報告された2)。接種後の死亡例は計55例であり, 65歳以上の高齢者は38例報告された。個々の症例の評価と集団としてのデータを系統的に検討していくことが重要であるとされ, 現時点で, 接種体制に影響を与える重大な懸念は認められないとされた2)。また, 製造販売業者からアナフィラキシーは943件(6,112,406接種中, ブライトン分類1-3は146件)報告されたが, 一定頻度でアナフィラキシーが生じることを前提とした対策を継続することとされた2)

 順天堂大学医学部臨床研究・治験センター臨床薬理学の伊藤澄信らによる先行接種者健康調査3)では, ファイザー社のワクチンを接種した約2万人の医療関係者が対象とされ, 37.5℃以上の発熱は2回目の接種で多く(1回目3.3%, 2回目38.1%), 接種部位反応は90%以上(1回目92.9%, 2回目91.8%)で報告された3)

日本の副反応疑い報告制度の課題

 米国では, ワクチンのモニタリングや安全性評価のためのシステムとして, 主にVaccine Adverse Event Reporting System(VAERS)とVaccine Safety Datalink(VSD)が整備されている。VAERSは自発的な有害事象報告による早期の探知と異常シグナルを検出することを目的としているが, ワクチンと有害事象の因果関係の検証はできない。一方, VSDは, Centers for Disease Control and Prevention(CDC)と9つの民間組織のネットワークであり, 予防接種歴と医療記録を含むため, 特定のワクチンの接種群と非接種群における有害事象の発生率を比較することができる。従って, VAERSで検知した有害事象のシグナルが, 当該ワクチンと関連しているのかをVSDにより検証することが可能である。日本にはVAERSに相当するシステムが存在するが, VSDに相当するシステムは存在しない。副反応疑い報告の情報収集と評価に関する議論は, 第37回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会4)(令和2年1月27日開催)における予防接種施策の見直しでも必要性が議論されているが, 日本では予防接種歴と医療機関受診歴などのデータは国, 市町村, 医療機関が個別に保有しており, 連結して解析することは困難である。2009年の新型インフルエンザワクチン接種の際に課題となった副反応報告制度を拡充して創設された予防接種後副反応疑い報告制度をさらに充実させるとともに, 迅速かつ科学的に解析する体制の構築が求められている。

 

引用文献
  1. 厚生労働省:予防接種法に基づく医師等の報告のお願い
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou20/hukuhannou_houkoku/index.html(閲覧日:令和3年5月26日)
  2. 厚生労働省:第60回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会, 令和3年度第8回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催)資料1-5
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18848.html(閲覧日:令和3年5月26日)
  3. 厚生労働省:第60回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会, 令和3年度第8回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催)資料2
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18848.html(閲覧日:令和3年5月26日)
  4. 厚生労働省:第37回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会資料3-2
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09097.html(閲覧日:令和3年5月26日)

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