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栃木県における麻疹検査体制とウイルス検出状況

(IASR Vol. 42 p187-188: 2021年9月号)

 

 栃木県では, 「麻しんに関する特定感染症予防指針の一部改正について」〔平成24(2012)年12月14日健感発1214第2号厚生労働省結核感染症課長通知〕に基づき, 麻疹排除に向けた積極的疫学調査を感染症発生動向調査の一環として実施している。

 栃木県保健環境センター(以下, 当センター)では麻疹疑いの検体が搬入された場合, 麻疹ウイルス遺伝子検査を実施している。しかし, 発疹を伴うウイルス性感染症には麻疹ウイルスの他にも数多くの原因があるため, 麻疹ウイルス以外のウイルスの検出も行っている。また, 風疹疑いで搬入された検体についても同一項目の検査を実施している。

 本稿では, 当センターにおける麻疹の検査体制および, 2018(平成30)年度~2020(令和2)年度に麻疹, 風疹疑い症例から検出されたウイルスについて報告する。

麻疹検査体制

 医療機関で麻疹および風疹(疑いを含む)と患者が診断された場合, 医師は尿, 血液, 咽頭ぬぐい液のうち, 2種以上の検体を採取する。保健所により当センターへ搬入された検体は, 麻疹ウイルス(MV)および風疹ウイルス(RV)の遺伝子検査を実施し, 保健所を経由して医療機関へ結果を報告する。MVとRVが陰性であった場合, ヒトヘルペスウイルス6, 7型(HHV6, 7)(2歳以下の症例のみ)およびヒトパルボウイルスB19(B19)の検査を実施する。

ウイルス検出方法

 検体は, 2018年4月1日~2021(令和3)年3月31日までに感染症発生動向調査により麻疹または風疹(疑いを含む)と診断されて当センターに搬入された104症例351検体とした〔2018年度71症例242検体, 2019(令和元)年度25症例84検体, 2020年度8症例25検体〕。

 検査項目はすべての症例に対してMVおよびRVを対象とし, これらのウイルスが検出されなかった症例に対してHHV6, 7(2歳以下の症例のみ)およびB19を追加した。また, 2018年度に搬入された検体については, 水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV), 単純ヘルペスウイルス1, 2型(HSV1, 2), エプスタイン・バーウイルス(EBV), エンテロウイルス(EV), ヒトライノウイルス(HRV), ヒトパレコウイルス(HPeV)をさらに追加した。

 検査方法は, MVおよびRVは病原体検出マニュアル1,2)の通りreal-time PCRを実施し, 遺伝子が検出された検体についてはダイレクトシーケンス法により遺伝子型を決定した。B19, VZV, HSV1, 2, EBV, EV, HRV, HPeVは既報3)の通りPCR検査を実施し, 遺伝子が検出された検体についてはダイレクトシーケンス法により塩基配列を決定した。HHV6, 7はLoopamp DNA増幅試薬キット(栄研化学)を使用して遺伝子を検出した。

結果と考察

 ウイルス検出結果を表1に示した。3年間に搬入された全104症例のうち, 40症例からウイルスが検出された。MVは3症例から, RVは10症例から検出された。MVおよびRVが検出されなかった91症例のうち, B19は14症例, HHV6は7症例から検出された。2018年度検体にのみ実施した検査項目のうちVZVは1症例, EBVは2症例, HRVは2症例, HPeVは1症例から検出された。MV, RVが検出されたのは13症例のみであったこと, MV, RV以外のウイルスが多数検出されたことから, 麻疹および風疹の臨床診断は困難であり, 遺伝子検査が重要であると考えられた。また, 判定困難な症例については患者情報や疫学情報, また他病原体による感染も念頭に総合的な結果の解釈が必要であると考えられた。

 2018年度に搬入された検体から検出された年齢層別ウイルス検出状況を表2に示した。MV, RV以外で成人から検出されたウイルスはすべてB19であったことから, 成人では伝染性紅班と麻疹および風疹の鑑別が重要と思われた。一方, 小児では突発性発疹等の報告が多い発疹性疾患の原因となる様々なウイルスが検出された。小児では発熱を伴う発疹性疾患が多く, 慎重な鑑別が重要と考えられた。

 今回の調査では, 104症例の6割以上にあたる64症例で原因ウイルスの検出ができなかった。これは発疹性疾患がウイルス性疾患の他に多様な要因により引き起こされること等が原因と考えられる。今後は, 今回の調査で検査を行わなかった病原体についても検索を行い, 原因ウイルスの解明に努めたい。

 

参考文献
  1. 病原体検出マニュアル, 麻疹(第3.4版)
  2. 病原体検出マニュアル, 風疹(第4.0版)
  3. 江原 栞ら, 栃木県保健環境センター年報 第25号: 53-56, 2020

栃木県保健環境センター         
 齋藤明日美 江原 栞 水越文徳 永木英徳
 酒井麻衣(前栃木県保健環境センター) 中島亜子(現栃木県県北健康福祉センター) 

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