国立感染症研究所

IASR-logo

神奈川県および全国のHIV検査動向とCOVID-19パンデミックの影響について

(IASR Vol. 42 p217-218: 2021年10月号)

 
神奈川県域の保健所等におけるHIV検査数の推移と陽性例の解析

 1987年2月から当時の神奈川県域(横浜市, 川崎市および横須賀市を除く)の保健所において, HIV抗体検査の受付が開始された。1993年4月からは検査が無料化され, 同年8月からはHIV-1に加え, HIV-2抗体検査も実施可能となった。2017年までに相模原市・藤沢市・茅ヶ崎市が保健所政令市となり, 各市に順次HIV検査が移管された。

 現在, 神奈川県域(保健所政令市を除く)には保健福祉事務所(HWC)4カ所, HWCに付属のセンターが4カ所あり, HIV即日検査はHWC4カ所, HIV通常検査はセンター1カ所で実施している。また, 特設検査施設として, 「休日即日検査(対象者限定なし)」と「対象者限定即日検査(男性同性間性的接触者と日本語に不慣れな人)」を開設している。

 神奈川県域でのHIV検査数および陽性数の年次推移を図1に示した。

 検査数は, 検査が無料化された直後の1993年をピークに年々減少傾向を示したが, 全国的に即日検査の導入が始まった2004年以降, 当県でも増加し始め, 2005年の特設検査施設(即日検査)の設置, 2006年のHWCへの即日検査導入により, 急激に増加した。2007年には検査数が3,080件とピークを迎え, それ以降, 2009年の新型インフルエンザの流行, 2011年の東日本大震災による社会的影響等により2017年まで減少が続いたが, 2018年に全HWCでHIVと梅毒の同時即日検査が開始されたことから検査数が増加に転じた。しかしながら, 2020年には新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行による緊急事態宣言発令のため, HWCおよび特設検査施設の休止・縮小等を余儀なくされたことから, 検査数が931件まで減少し, 1992年以降で最少となった。陽性数をみると2009年の13件が最も多く, 近年は毎年3-9件と横ばいであり, 陽性率は0.2-0.6%で推移している。

 即日検査導入後の2006~2020年のHIV陽性例103件の性別, 国籍およびサブタイプ型別をに示した。国内の主流行株であるサブタイプBの検出が最も多いが, CRF01_AEや組換え型等の非サブタイプBも32%を占め, 国外由来株が増加していることから, 今後もその動向に注視したい。

感染症パンデミックがHIV検査体制に及ぼす影響

 全国保健所等HIV検査アンケート調査(2006-2019)およびエイズ発生動向委員会報告(https://api-net.jfap.or.jp/status/japan/old.html)を基に, 全国の保健所等HIV検査動態についてまとめた(図2)。

 1987年に始まった全国保健所等におけるHIV検査数は1992年に13万件を超えたが, その後は減少し続け, 2000年には約5万件まで減少した。しかし, 全国陽性数とともに保健所検査での陽性数も年々増加していたため, 検査体制の見直しが課題となった。対策として, 即日検査法の導入, 夜間や土日の特設検査所の開設等が順次行われ, 検査情報を提供するホームページ「HIV検査・相談マップ」の公開等もあって検査数は増加に転じ, 2008年には約18万件となった。2009年には新型インフルエンザ流行の影響を受け, 2010年の検査数は約13万件で, 2008年に比べ26%減少したにもかかわらず, 陽性数は473件で2008年比5.6%減に留まった1)

 2020年より世界中でCOVID-19によるパンデミックが発生し, 全国自治体のHIV検査体制は大きな影響を受けている。特に2020年4月の緊急事態宣言後に保健所等HIV検査の縮小・中止が相次ぎ, 2020年全国自治体での検査数は約7万件で, 2019年の約半数(49%)まで激減した。2020年の陽性率は0.42%で, 2019年の0.31%に比べ高かったが, 陽性数で比較すると, 2020年は290件で, 2019年の437件に比べ34%減少していた。また, HIV感染者数に占める自治体検査陽性数の割合は2006年以降45%程度で推移していたが, 2020年には39%まで減少した。2020年のHIV陽性数は750件で, 前年の903件に比べ153件減少したが, 陽性率は低下していないことから潜在的なHIV感染者は減少しておらず, 検査数の激減等の影響により十分に捕捉されていない可能性がある。

 2021年もCOVID-19パンデミックは拡大し続けており, 自治体の感染症部門の業務がひっ迫する中, HIV検査機会の提供が困難な状況が継続し, 検査体制は危機に瀕している。検査機会の減少により感染の発見が遅れ, さらに治療開始が遅れれば, 今後HIV感染者・AIDS患者の増加が危惧される。検査希望者が自治体無料匿名検査を受けられる体制を維持すること, また, 男性同性間性的接触者および外国籍等の個別施策層への検査普及・啓発活動を積極的に行う等, コロナ禍での効果的なHIV検査体制を早急に構築していく必要がある。

 

参考文献

神奈川県衛生研究所微生物部   
 佐野貴子 近藤真規子 櫻木淳一
神奈川県健康医療局       
 中澤よう子 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version