IASR-logo

検査で確認された風疹症例における前駆症状である発熱の開始から発疹の出現までの期間:横断的研究1)

(IASR Vol. 43 p6-7: 2022年1月号)

 
背 景

 風疹の臨床症状は非特異的であるため, 風疹の診断はPCRなどの検査によっている。しかし, 風疹のPCR検査能力が限られており全症例を検査することは困難なことがある。どの症例を優先的に検査すべきかを保健所や医療機関が選ぶことも, また容易ではない。

 一方, 成人の風疹では, 発疹出現に先行して発熱などの前駆症状が現れることが少なくない。風疹患者の発熱の開始から発疹の出現までの期間に関するデータは, 風疹を検査する必要がある症例のスクリーニングに役立つ可能性がある。

 本研究では, 風疹患者を対象として, 発熱の開始から発疹の出現までの期間を調査することとした。その目的は, 検査能力が限られている状況で, 風疹のPCR検査を優先的に実施すべき症例をスクリーニングするためのエビデンスを求めることである。

方 法

 対象は, 2018年4月~2019年12月までにおいて, 医師が臨床的に風疹の疑いがあると判断して, 感染症法に基づき茨城県竜ケ崎保健所または土浦保健所に届け出た患者である。このうち, PCR検査, 特異的IgM抗体, またはペア血清のIgG抗体の有意の上昇によって確認された症例を, 風疹とした。

 発疹出現7日以内の症例についてはRT-PCR検査を実施した。検体を遠心分離, RNA抽出後, 逆転写とPCR増幅をまとめたワンステップアッセイを実施し, 陽性対照Ct値が40以下で検体Ct値が陽性対照のCt値以下である場合, 陽性とした。

 発熱の開始から発疹の出現までの期間の分布を計算した。統計分析は, R(バージョン2.4-0)を実装した。

 患者等から書面により, 研究に関するインフォームドコンセントを得た。 研究計画は, 2019年7月25日に茨城県疫学研究合同倫理審査委員会によって承認された(プロトコル番号:R1-06)。

結 果

 届出のあった109例のうち, 発熱と発疹が同時にみられた86例について分析し, 検査に基づいて29例(34%)を風疹と確認した。風疹の29例では, 発熱の開始から発疹の出現までの時間は, -1日(前日)~2日後に限定されていた。風疹の症例数は, 発疹の出現が発熱開始の翌日であったときに最も多かった。2回予防接種した者には, 風疹はいなかった(表1)。

 RT-PCR検査を受けた78例においては, 発熱の開始から発疹の出現までの期間が-1日(前日)~2日後の間の患者のうち, 48%(46例中22例, 95%信頼区間34-62%)が検査陽性であった。発熱の開始から発疹の出現までの期間が3日以上の患者おいては, 検査陽性の者はいなかった(30人中0人, 95%信頼区間0-14%)。検査陽性の割合は, 発熱開始の翌日に発疹が出現した対象において最も高かった(67%)(表2)。

考 察

 発熱の開始から発疹の出現までの期間は, 風疹患者においては-1日(前日)~2日後に限定されており, 期間が3日以上の場合は風疹の可能性は低かった。この結果は, 風疹の罹患率(事前確率)が低い一方, 検査能力が限られている場合, 優先的に検査を行う必要がある症例のスクリーニングに役立つと考える。

 中国の研究によると, 前駆症状が3日以上続いた風疹患者の割合は16.7%であり2), 本研究の結果と相応している。一方, 先行研究において, 発熱と発疹の出現時期を直接比較した報告は見当たらなかった。最近, 野本らは, 成人の結膜炎が風疹と有意に関連していると報告し, これは成人の風疹の早期診断には役立つ一方, その出現時期は記載されていなかった3)

 本研究では, 2回のワクチン接種を受けた者においては陽性患者が確認されず, 風しんを含むワクチンの普遍的な接種の重要性を支持している。

 本研究の限界について, 第1に, 期間の計算には暦日を使用しており, 必ずしも正確な期間を反映していなかった。第2に, RT-PCR陰性の症例について, 回復期の血清風疹IgMは測定されなかった。第3に, 発症は主に患者の自覚症状に基づくため, 正確な時間を反映していなかった可能性がある。第4に, 地域での風疹の流行が終息したため, 対象数が限られたこと, があげられる。

 今後の研究では, 暦日ではなく実際の時間に基づいて, 他の地域も含めて, より多くの患者について調査することが有用である。

 

参考文献
  1. Ogata, T, et al., BMC Infect Dis 442: 21, 2021
  2. Yan Y, J Chin Med Assoc 68: 571-577, 2005
  3. Nomoto H, et al., PLOS ONE 15: e0231966, 2020

茨城県竜ケ崎保健所  
 緒方 剛 室岡真希 明石真言 石塚あけみ
茨城県土浦保健所   
 宮崎 星      
茨城県衛生研究所   
 大澤修一 石川加奈子
国立感染症研究所   
 多屋馨子      
京都府立医科大学   
 上原里程

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan