国立感染症研究所

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静岡県の研修施設を原因とした広域感染事例

(IASR Vol. 43 p111-112: 2022年5月号)

 

 2021年12月, 静岡県内の研修施設で発生した, 提供された食事を原因とする腸管出血性大腸菌(EHEC)O157:H7による食中毒について, その概要を報告する。

事例の概要

 2021年11月29日に, 関係自治体から県内の研修施設での研修に参加した3名が, 下痢等の症状を呈し病院を受診した, との連絡が所管保健所にあり調査を開始した。

 研修は当該施設において11月22~24日に行われ, 13都県から32名が参加していたが, 調査の結果, 9名が下痢, 血便, 水様性下痢, 腹痛等を発症していた(表1)。検便の結果, 発症した研修参加者9名中5名と調理従事者16名中2名からEHEC O157:H7(VT1&2)が検出された。患者の発症期間は11月24日~12月4日で, 研修期間中に消化器症状を呈した者はいなかった。なお, 通報探知後, 当該施設は保健所の要請を受け, 11月29日から営業を自粛した。

検査対応

 発症者の検査は居住地自治体において実施され, 静岡県では研修所の調理従事者16名と食材検体と施設ふきとり検体について検査した結果, 調理従事者2名よりEHEC O157:H7(VT1&2)が分離された。また, 食材(各食事分を混合)6検体と施設ふきとり10検体についても菌培養とVT毒素検出(オーソVT)を試みたが, これらはすべて陰性であった。また, 分離された調理従事者由来株2株について, 反復配列多型解析(MLVA)を実施した。発症者はすべて県外在住者であったため, 発症者の居住自治体が把握しているMLVAの解析結果と調理従事者の解析結果を比較したところ, 遺伝子型の同一性が確認された。また, 静岡県環境衛生科学研究所では, 各食事の残品増菌液からのVT遺伝子の検出(リアルタイムPCR法)と菌分離培養も実施したが, いずれも陰性であった。

結 果

 患者9名の発症時間は, 11月24日18時~12月4日13時で, EHEC食中毒の潜伏期間が4~8日であること, 研修生は全国から集まり当該施設以外に共通の施設がないこと, 患者と調理従事者から分離された菌株のMLVA法の結果が一致したことから, 当該施設を原因施設と断定した。なお, 発症者由来の4株と調理従事者由来の2株のMLVA型は, 国立感染症研究所(感染研)からの報告では, すべて21m0390であることが明らかになった(表2)。また, 当該事例発生時期の前後に他の都府県から同一のMLVA型の報告はなかった。

考 察

 保健所の施設調査では, ①研修所内は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)対策として, 宿泊部屋は個室で自由時間の部屋への行き来は禁止されていた, ②各部屋の入室時の手指のアルコール消毒, 特に食堂の入口では手指の洗浄, アルコール消毒が徹底されていた, ③研修や食事はソーシャルディスタンスが確保されていたこと, が明らかになった。また, この研修前後の当該施設利用者に体調不良者は確認できなかった。患者と陽性となった従事者2名の共有設備は食堂のみで, 同じメニューを喫食していた。

 以上のことから, 本事例は研修施設で提供された食品を原因とした食中毒と断定された。

 原因食品と感染経路については, メニューから①牛肉, ②加熱処理をしていない野菜, ③調理従事者からの食材汚染, のいずれかを疑った。このうち①は23日の夕食で使用されていたが, 大鍋で加熱処理後に小分けして提供されていた。②は22日夕, 23日朝, 24日朝・昼に提供され, 菌が検出された調理従事者が調理に携わっていた。疫学調査の結果, 初発患者の発生時刻が24日18時であったことから, 22日夕または23日朝に提供された食事が原因として疑われたが, すべての食材等の残品からVT遺伝子とEHECは検出されなかったため, 原因食品の特定には至らなかった。

 本事例では, 研修参加者が13都県と広域であったため一斉検査が困難であったが, 感染研で付与されたMLVA型を比較することで, 同一の感染源であることが明らかになった。

 今回のような広域感染事例では, MLVAによる遺伝子型解析と, そのデータ共有が非常に重要であることが改めて示唆された。

 謝辞:本報告にあたり, 情報提供をいただいた関係各位に深謝いたします。


静岡県環境衛生科学研究所微生物部
 柴田真也 宮川真澄 中島慶太郎 大越 魁
 小川 紋 石神勝幸 長岡宏美

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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