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腸管出血性大腸菌によるアウトブレイク調査レポート, 2021年-米国

(IASR Vol. 43 p115-117: 2022年5月号)

 

 米国疾病予防管理センター(CDC)は, 2021年に米国の複数州にまたがり発生した腸管出血性大腸菌(EHEC)の広域アウトブレイク4事例の疫学調査概要をホームページ上に掲載した。いずれも食品媒介と結論付けられ, ミックスサラダが原因の事例, ホウレンソウのベビーリーフが原因の事例, ケーキミックスが原因の事例, 原因食品不明の事例であった。いずれの事例も溶血性尿毒症症候群(HUS)の症例が報告され, そのうち2事例からは死亡者の発生が報告された。これら4事例の疫学調査の概要は以下の通りである。

1. ミックスサラダのO157:H7事例

 本事例は, 2021年12月30日にCDC, 複数州の公衆衛生部局および米国食品医薬品局(FDA)の調査により, Simple Truth OrganicブランドとNature’s Basketブランドで販売されているミックスサラダがEHEC O157: H7の汚染源である広域事例としてCDCのホームページに掲載された。2021年11月27日~12月9日の間に4州から患者10人が報告された。患者の年齢中央値が59歳(範囲:26-79歳)で, 女性の割合が100%であった。情報が得られた10人中, 4人が入院し, うち2人がHUSを発症し, 1人が死亡した。

 州の公衆衛生部局の聞き取り調査で, 合計9人がOrganic Power GreensでSimple Truth Organicブランド(8人)とNature’s Basketブランド(1人)のミックスサラダを購入したことが判明した。それぞれの商品は同じ産地の葉野菜のミックスサラダ(ホウレンソウ, 水菜, ケール, フダンソウ)であった。FDAはさかのぼり調査を実施し, アリゾナ州とカリフォルニア州の農場を特定したが, 共通の汚染源は見出せなかった。

 PulseNetより, 患者検体から検出された菌株は全ゲノム解析(WGS)の結果から密接な関連があることが判明するとともに, 過去にロメインレタスが感染源となった事例で検出された菌株と関連が認められた。

 公衆衛生対応として, 2021年12月30日時点で, CDCは12月20日消費期限のSimple Truth OrganicブランドとNature’s Basketブランドで売られているミックスサラダの喫食を避けることを呼びかけた。

2. ホウレンソウのベビーリーフによるO157:H7事例

 本事例は, 2021年11月15日にCDC, 複数州の公衆衛生部局およびFDAの調査によりEHEC O157とホウレンソウのベビーリーフに関連した広域事例としてCDCのホームページに掲載された。2022年1月6日時点で, 疫学調査および病原体解析の情報からJosie’s Organicsが出荷した2021年10月23日を消費期限とするホウレンソウが共通食であった。10州から合計15人の患者が報告された。発症日は2021年10月13日~11月8日で, 患者の年齢中央値は26歳(範囲:1-76歳)で, 女性が80%であった。情報収集が可能な15人のうち, 4人が入院し, 3人がHUSを発症した。死亡例は報告されなかった。

 州の公衆衛生部局が喫食の聞き取り調査を実施した13人中, 11人(85%)がJosie’s Organicsが出荷したホウレンソウを喫食し, Food Population Surveyのホウレンソウの喫食(46%)よりも有意に高い割合であり, アウトブレイクの原因を示唆していた。

 患者の検体から検出された菌株は, WGSの結果から遺伝学的に密接な関連があることが判明し, 共通食材の可能性が考えられた。また, ミネソタ州は回収したJosie’s Organicsのホウレンソウのベビーリーフからは患者と同じ菌株を検出した。FDAはさかのぼり調査を実施し, 2つの異なる地域の農場を特定したが, 汚染源は特定できなかった。

 CDCは2021年11月15日時点に2021年10月23日を消費期限とするJosie’s Organicsのホウレンソウの喫食を避け, 販売しないように周知した。

3. ケーキミックスによるO121事例

 本事例は, 2021年7月27日にCDC, 複数州の公衆衛生部局およびFDAの調査によりケーキミックスに関連するEHEC O121による広域事例としてCDCのホームページに掲載された。2021年9月16日時点で, 12州から16人の患者が報告された。発症日は2021年2月26日~6月21日で, 年齢中央値は13歳(範囲:2-73歳)で, 女性が100%であった。情報が得られた16人中7人が入院し, うち1人がHUSを発症した。なお, 死亡例の報告はなかった。

 州および地方自治体の公衆衛生当局が実施した聞き取り調査で8人中6人(75%)が生のケーキミックスの喫食歴を有していた。

 患者検体から検出された菌株は, WGSの結果から遺伝学的に密接な関連があることが判明し, 共通食材の可能性が考えられた。FDAはさかのぼり調査で, 共通のケーキミックスの製造会社および製造工場の特定を実施した。

 CDCは, 生のケーキミックスには病原体が付着している可能性があることから, 十分な加熱あるいは調理により病原体を不活化する必要があることを周知した。

4. 原因食品不明のO157:H7事例

 本事例は, 2021年2月2日にCDC, 複数州の公衆衛生部局, FDAおよび米国農務省食品安全検査局(USDA-FSIS)の調査によりEHEC O157:H7の広域事例としてCDCのホームページに掲載された。2021年3月10日時点で, 7州から22人の患者が報告され, 発症日は2020年12月18日~2021年1月12日であった。患者の年齢中央値は28歳(範囲:10-95歳)で, 女性が68%であった。情報が得られた20人のうち, 入院が11人であり, 情報があった18人のうち3人がHUSを発症した。ワシントン州から1人の死亡が報告された。

 州および地方自治体が実施した発症前1週間の聞き取り調査で, 共通する食品やアウトブレイクを引き起こす原因は見出せなかった。

 CDCが管理するPulseNetより, 患者検体から検出された菌株と遺伝子上の密接な関連のある菌株が検出され, 共通食材の可能性が考えられた。なお, このWGSの結果は, 以前ロメインレタスやレジャー等で接する水(河川, 湖, 海岸水)から検出された菌株と関連があったものの, FDAのさかのぼり調査からは共通の感染源は見出せなかった。

 出典:Reports of E. coli Outbreak Investigations from 2021(https://www.cdc.gov/ecoli/2021-outbreaks.html


抄訳担当:国立感染症研究所     
      実地疫学専門家養成コース
       井上英耶       
      実地疫学研究センター  
       八幡裕一郎 砂川富正

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