国立感染症研究所

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青森県におけるつつが虫病の発生状況

(IASR Vol. 43 p176-177: 2022年8月号)

 

 つつが虫病は, 感染症法に基づく全数把握が必要な4類感染症であり, 診断した医師は直ちに保健所に届け出なければならない。本稿では, 青森県における2006~2021年の患者発生状況と, 過去10年間の診断月別および性別年齢区分別の状況等についてまとめたので報告する。

 また, 青森県環境保健センター(以下, 当センター)では, 検査診断のための臨床材料を用いた病原体遺伝子の検出を実施しているが, 近年検出したOrientia tsutsugamushiの解析結果について報告する。

患者発生状況

 2006~2021年では, 計239例のつつが虫病患者の報告があり, 当該期間中では2006年が最多の28例であった。以降は増減を繰り返しており, 近年は比較的報告が少ない年もみられたが, 2018年以降は毎年増加し, 2021年には23例の報告があった(図1A)。

診断月別発生状況

 2012~2021年の患者報告では, 5~6月に大きなピークがみられ, 10~11月にも小さなピークがみられた(図1B)。

性別年齢区分別分布

 2012~2021年の報告患者の性別・年齢区分別分布は, 男性が72例(53.3%), 女性が63例(46.7%), 年齢中央値は71歳(男性68.5歳, 女性73歳)であり, 60代~80代の患者が107例(79.3%)を占めた(図1C)。

感染地域および推定感染場所

 2012~2021年の報告患者の感染地域(確定または推定, 市町村別, 1例重複を含む計136例)は, 青森市(33例, 24.3%)が最も多く, 次いで十和田市(12例, 8.8%)や弘前市(10例, 7.4%)からの報告が比較的多かった。一方, 県北部の下北地域での報告は比較的少なかった。その他, 岩手県を推定感染地域とした報告が3例あった(図2)。

 また, 同期間に推定感染場所の記載があった52例(複数報告あり)の内訳は, 山林(23例), 畑仕事中(18例), 草刈り作業中(10例), 公園(1例)であった。

症状および所見

 2012~2021年の報告患者の症状(135例の報告, 490の症状記載, 複数報告あり)では, 発熱(131例, 97.0%), 発疹(117例, 86.7%), 刺し口(116例, 85.9%), 頭痛(34例, 25.2%), リンパ節腫脹(32例, 23.7%)であった。その他, 肺炎(4例, 3.0%), 脳炎(1例, 0.7%)等が認められていた。

分子系統解析

 2021年4月~2022年5月に当センターで検査を行った患者検体(血液または痂皮)については, PCR法1)によりO. tsutsugamushiの56kDaのポリペプチドをコードする遺伝子を検出した4例の陽性検体について, ダイレクトシーケンス法によりDNA塩基配列を決定したところ, 血清型はすべてKarp型であった。また, 最尤法により分子系統樹(472塩基)を作成したところ, 本県で検出されたO. tsutsugamushiのうち3例は, 標的遺伝子領域の配列において国内に分布するKarp型に分類されたが, 1例は台湾株に近縁であった(図3)。

おわりに

 青森県におけるつつが虫病患者届出数は, 近年, 増加傾向にあり, 感染地域(推定を含む)は県央部から県南部が比較的多い一方で, 県北部が少ないこと, また, 検出されたO. tsutsugamushiの血清型はKarp型が多いこと, が確認された。

 当センターでは, 今後も検査依頼に即応できる検査体制を維持し, 発生動向を注視しながら, 県民の感染予防および早期治療の一助となるよう, 適時情報発信をしていくことが重要と考えられる。

 
参考文献
  1. 国立感染症研究所, リケッチア感染症診断マニュアル, 令和元(2019)年6月版

青森県環境保健センター 
 鈴木 敬 山上剛志 小川裕貴 坂 恭平
 二本栁朋子 菩提寺誉子 小笠原和彦

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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