国立感染症研究所

IASR-logo

侵襲性インフルエンザ菌感染症発生動向: 2018年1月~2021年12月

(IASR Vol. 44 p10-11: 2023年1月号)

 侵襲性インフルエンザ菌感染症(invasive Haemophilus influenzae disease: IHD)は2013年4月から感染症法に基づく5類感染症全数把握対象疾患となった1)。以下の症例が届出対象となる2)

 ・分離・同定による病原体の検出またはPCR法による病原体の遺伝子の検出によってHaemophilus influenzaeが髄液または血液, その他無菌部位から検出された症例

 ・ラテックス法による病原体抗原の検出によって髄液からH. influenzaeが検出された症例

 H. influenzaeは莢膜の有無によって莢膜型と無莢膜型に大別され, 莢膜型は莢膜多糖に対する抗血清を用いた菌の凝集反応によりa-fの6型に分類される。うちb型の莢膜多糖を持つH. influenzae b型(Hib)に対してはHibワクチンがあり, 生後2か月以上60か月未満の乳幼児を対象とする定期接種ワクチンとして2013年4月に導入された。Hibワクチン導入によって5歳未満小児における侵襲性感染症罹患率が大幅に低下したことが報告されている3)が, 感染症発生動向調査(NESID)の届出対象はIHDであり, b型以外のIHDも対象に含まれる。

 本稿は, 2018年1月~2021年12月に診断され, NESIDに届出されたIHDの症例(n=1,477)について記述的にまとめたものである。2020年以降の届出数は2018年, 2019年と比較して減少した()。累積では, 届出数は男性が56%(822/1,477)で, 各年齢群の割合は5歳未満が11%(158/1,477), 5歳以上15歳未満が3%(40/1,477), 15歳以上65歳未満が18%(267/1,477), 65歳以上が69%(1,012/1,477)であった。届出に基づき, 以下に分類した病型についてみると, 肺炎が最も多く53%(785/1,477), 次いで感染巣不明の菌血症38%(554/1,477), その他5%(78/1,477)で, 髄膜炎が4%(60/1,477)と最も少なかった。

 病型は以下の通りとした。

 髄膜炎: 届出票の症状欄において「髄膜炎」が記載されている, または髄液からH. influenzaeが検出されている症例

 肺炎: 髄膜炎に分類されず, かつ届出票の症状欄において「肺炎」が記載されている症例

 感染巣不明の菌血症: 髄膜炎, 肺炎, その他のいずれにも分類されない症例

 その他: 髄膜炎と肺炎に分類されず, かつ届出票の症状欄において「関節炎」, 「咽頭蓋炎」, 「その他症状」が記載されている症例

 病型を髄膜炎とした症例に加えて, 髄膜炎を呈する可能性がある症状(「頭痛」, 「嘔吐」, 「意識障害」, 「項部硬直」, 「大泉門隆起」のいずれか)の届出があった者を髄膜炎(広義)として分類した場合, 髄膜炎(広義)の割合は21%(316/1,477)であった。また届出時点での死亡例は6%(91/1,477)であった。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大による最初の緊急事態宣言(7都府県対象)が発出された2020年第15週の前後各52週間(宣言前: 2019年第16週~2020年第15週, 宣言後: 2020年第16週~2021年第14週)に届出されたIHD症例の発生動向を比較した()。宣言前の届出数は計484件で2019年12月~2020年1月を除き漸減傾向であったが, 宣言後の届出数は計183件で, 約40%と大きく減少した。年齢分布は宣言前後で明らかな変化はなかった。病型は, 肺炎の割合は宣言前が56%(271/484)で宣言後が42%(77/183)と減少した。菌血症の割合は増加し, 宣言前が35%(169/484)で宣言後が46%(84/183)であった。

 国内においてCOVID-19緊急事態宣言後にIHDの届出数が顕著に減少した。また, 海外でも各国におけるCOVID-19封じ込め対策の導入と同時にIHDの大幅な減少が報告されている4)。IHDは飛沫感染を主な感染経路としており, COVID-19の感染対策としてマスクの着用等の感染対策が広く行われるようになったことが届出数の減少につながった可能性が示唆され, このことは同様の感染経路をとる侵襲性肺炎球菌感染症の同様な減少の報告5)とも矛盾しない。ただし, COVID-19の流行が, 特に緊急事態宣言前後に, 患者の受診行動や医療機関におけるCOVID-19以外の感染症に対する検査診断頻度や届出状況として影響を及ぼし, IHD届出数が減少した可能性については評価ができていない。しかし多くの場合, 重症例となる侵襲性感染症の検査診断においては考えにくいと思われる。実際, 届出時死亡例の割合は宣言前5%(23/484)に対し宣言後4%(8/183), 重症病型である髄膜炎の割合は宣言前4%(17/484)に対し宣言後4%(7/183), と宣言前後で大きな変化はなかった。引き続き国内の感染対策の実施状況と, 主な感染経路として飛沫感染をとる疾患の発生状況にも留意しながら, IHDの発生動向について注視する必要がある。

 謝辞: 感染症発生動向調査に御協力いただきました各自治体本庁, 保健所, 地方衛生研究所, 医療機関の皆様に深く感謝申し上げます。

 

参考文献
  1. IASR 34: 185-186, 2013
  2. 厚生労働省, 感染症法に基づく医師の届出のお願い(侵襲性インフルエンザ菌感染症)
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-44.html(Accessed on November 14, 2022)
  3. IASR 34: 194-195, 2013
  4. Brueggemann AB, et al., Lancet Digit Health 3: e360-e370, 2021
  5. 侵襲性肺炎球菌感染症の届出状況,2014年第1週~2021年第35週
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/pneumococcal-m/pneumococcal-idwrs/10779-ipd-211126.html (Accessed on November 14, 2022)

国立感染症研究所         
 実地疫学専門家養成コース(FETP)
 実地疫学研究センター      
 感染症疫学センター

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version