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レプトスピラ症の発生状況

(IASR Vol. 44 p29-30: 2023年2月号)

 

 レプトスピラ症は, レプトスピラを腎臓に保菌する動物の尿や, その尿によって汚染された淡水や土壌との接触によって経皮的・経粘膜的に感染する動物由来感染症である。ネズミやイノシシなどの野生動物に加え, イヌやウシ, ブタなどもレプトスピラの保菌動物として知られている1)。本症は2003年11月施行の感染症法改正により4類感染症全数把握疾患となり, 2016年4月までの発生状況は本誌でまとめられている2,3)。本報では2016年1月~2022年10月末までに届出されたレプトスピラ症について概説する。

患者発生状況・推定感染地

 2016年1月~2022年10月末までに, 29都道府県から273例のレプトスピラ症の届出があった(2022年10月31日現在届出数)。このうち, 国内感染例は257例(94%)で, 各年17-76例届出されている。国内の推定感染地として27都道府県の記載があり, うち171例(63%)が沖縄県, 次いで17例(6%)が鹿児島県であった。また国外感染例(輸入例)は15例(5%)で, 2016~2019年は毎年, 数例届出されている。国外の推定感染地は, タイ(4例), マレーシア(ボルネオ島を含む3例), ラオス(2例), インドネシア(バリ島), ペルー, ミャンマー, フィリピン(パラワン島), グアム(各1例), その他複数国訪問が1例で, 大半が東南アジアであった。患者は夏~秋にかけて多くみられ, 発症日の記載があった国内感染例242例のうち, 8月発症が最も多く(95例, 39%), 7~10月に集中していた(219例, 90%)()。

性別年齢分布

 届出患者273例のうち, 男性は236例(86%), 女性は37例(14%)であった。患者の年齢中央値は39歳(範囲: 3-89歳)であった。届出時点での死亡例は2例(60代男性1, 70代女性1)であった。

推定感染原因

 感染症発生動向調査(NESID)届出票に記載された感染原因(重複あり)は, 国内および国外とも水系感染が最も多かった(国内257例中206例, 80%, 国外15例中13例, 87%)。国内で最も届出が多い沖縄県では多くが水系感染(171例中159例, 93%, 河川でのレジャー・労働などによる感染を含む)であった4)。一方, その他都道府県では水系感染は約半数(86例中47例, 55%, 河川でのレジャー・労働5), 台風や大雨による水害, 水田での農作業による感染を含む)であり, ネズミ咬傷による感染や, ネズミ等の尿で汚染された水系以外の環境(市場など)での労働作業による感染, などが報告された。海外では, 台風や季節的な大雨による洪水後のレプトスピラ症のアウトブレイクが発生しているが, 国内では2018年7月の尼崎市の豪雨や, 2019年10月の福島県での台風時の洪水によるレプトスピラ症の発生が報告された6,7)

国立感染症研究所におけるレプトスピラ症実験室診断

 同期間中に国立感染症研究所(感染研)細菌第一部で実施したレプトスピラ症実験室診断陽性率は, 年11.7-35.0%(平均22.1%)であった。届出数が多かった2016年夏季と2022年夏季においては, 検査数・検査陽性数・検査陽性率のいずれもが, 2017~2021年の同期間のそれらの値を上回っていた。レプトスピラ症実験室診断陽性140例の診断法は, 顕微鏡下凝集試験(microscopic agglutination test: MAT)によるペア血清での抗体検出が128例(91.4%), PCRによるレプトスピラDNA検出が74例(52.9%), 培養が5例(3.6%)であった(複数の検査で陽性となった症例あり)。一方, 沖縄県衛生環境研究所での実験室診断陽性率は46.3%であり, 陽性例の培養陽性率は49.6%であった4)

 病原体分離は保菌動物の同定を含め伝播経路や病原性の解明に必須であるが, 分離に必要な特別な培地は沖縄県を除いては病院や保健所に常備されていない。しかしながら, レプトスピラはヘパリン採血血液中で長期間生存し, その後専用培地に接種することで培養可能であるとの報告もある8)。抗菌薬投与前に適切な検体を採材してもらうため, 患者の症候や疫学的背景等からレプトスピラ症を疑い, 検査を実施するよう啓発を推進していく必要がある。また陽性例の半数は血清診断でのみ診断されているが, 現状MATは一部機関でしか実施できない。MATに代わる簡便な血清診断法の開発も本症の実態把握には必要である。なお感染研では上記すべての検査を行うことができる(https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ra/leptospirosis/522-leptospirosis-exam/707-lepto-exam.html)。

 

参考文献
  1. 小泉信夫ら, 化学療法の領域, 29: 672-678, 2013
  2. IASR 29: 1-4, 2008
  3. IASR 37: 103-105, 2016
  4. Kakita T, et al., PLoS Negl Trop Dis 15: e0009993, 2021
  5. 児玉亘弘ら, IASR 44: 30-31, 2023
  6. 伊藤 渉ら, IASR 39: 202-203, 2018
  7. 塚田敬子ら, IASR 41: 102, 2020
  8. Wuthiekanun V, et al., J Clin Microbiol 45: 1363-1365, 2007

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